あなたと共に逝きましょう:村田喜代子著のレビューです。
どこか幻想的でもある闘病小説
やっぱり、一筋縄ではいかないなーという感想を最初に述べてしまいたくなる村田作品。還暦過ぎの共稼ぎの夫婦。子供たちはすでに独立し、二人だけの生活を送っていたのだが、夫が体調不良でどうもよくない。医者に診せると大動脈瘤が大きくなっているという。
夫の身体の中で蠢く病魔。いつ破裂してもおかしくない状況。ここからは「闘病の記」といった内容になるのだが、どこか幻想的な雰囲気で綴られてゆく。
手術をする前に、二人で出かける温泉旅行。夢のなかで出逢った男と女郎の「わたし」との官能。特に夢の話を登場させるあたりが、村田さんのユニークさを象徴しているよう。日常と非日常の境界線が曖昧になってゆく。湯治や食事療法など手を尽くすが、手術は決行される。そして、無事に終わった手術。
人の感情ってどこまでも複雑
そこから妻の感情がクローズアップされる。妻は自分の亭主のその秘部に人の手が入った事実に打ちのめされる。手術は成功しても自分たちは負けたのだと。
夫が無事手術を終えたことを、素直に喜べたわけではなかったのだ。あんなに一緒に病気と闘っていたというのに。
────夫の肉体は自分が作ったのだと思う ─────
毎日食事を作り、共に歩いてきたということが実感できる深い言葉だ。その肉体に異変が起き、他人の手が入った怒りとも言える感情。
夫は助かったけれども、そこで彼女は「おいてけぼり」になったような気分を味わう。
妻が持つ感情はどこまでも深く圧倒されてしまった。
女性側の視点から描かれた小説なので、女性の方がこの妻の気持ちに寄り添えるものがあると思います。
還暦後の夫婦の在り方、伴侶の病、死、など、淡々とした描き方ではあるが、なかなか重みのある内容でした。男性も後学のために読んで損はないと思う。
病気ものは小心者ゆえ避けていて、この小説も途中で止めようと思ったのですが、夫婦の淡々としたやり取りや、温泉地の様子など、闘病記寄りでなかったのもあって読めてしまいました。
しかし、医者の説明などかなり事細かに記載されていたなぁーと後になって思いました。よくぞこんな私でも読めたものだと思ったほど村田さんの作品はあらためて読ませる何かがあるのだなぁーと実感。





