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うずまきぐ~るぐる 

*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【レビュー】羊は安らかに草を食み:宇佐美まこと

 

 

羊は安らかに草を食み:宇佐美まこと著のレビューです。

☞読書ポイント 

もし、人生最後の旅をするなら、誰とどこへ行くか。過酷な昭和の時代を生きた女性。満州の話を含め彼女の過去を辿る旅へ。振り返ることの良さもあるが、知らないままのほうが良い場合もあり、両方を考えさせらる。自分の足で歩けるうちに、会いたい人には会い、行きたい場所は行っておく。そんな思いもチラつく一冊。

 

感想:過去の断片を取り除く人生最後にする旅で見えてきたものとは?

 

羊は安らかに草を食み

羊は安らかに草を食み

 

よくできた作品で、夢中になって読みました。けどけども、後半出て来る「問題の男」がちょっと余計だったかな。個人的にはこの部分だけが、これまでの作品の旨味を一気に奪ってしまったような気がして、「本当に惜しい!もったいない!」と、ふてくされてしまった(笑)

 

でもこの感情も物語のなかの人々がずっと抱いていた問題とどこか似ている。全てを知ることが果たして良いことなのか。「匙加減」という言葉あるけど、まさにこの話もその調整が難しく、どこで切り上げるのがベストであるのか、もしかしたら著者の宇佐美さんも迷ったのではないだろうか。

 

けどね、本当に良い作品であるのは確かです。まずはざっくりのあらすじを。

 

アイ、富士子、益恵は20年来の俳句仲間。年の違う彼女たち、益恵は痴呆症が進行している。老老介護に限界を感じた夫は益恵を施設に入れることを決意。ある日、アイと富士子はその夫から益恵を最後の旅に連れ出して欲しいと二人にお願いした。

 

夫の望みは「過去の断片がまあさんを苦しめている。彼女の心のつかえを取り除いてあげたい」と。これらを踏まえ、3人の老女たちは、益恵がこれまで暮らした大津、松山、五島列島を旅することになった。

 

 

 

 

物語は国内の旅と、益恵が幼い時に過ごした過酷な満州の話とを行ったり来たりする。家族を失った彼女がいかにして日本に戻ることができたのか。この時期の彼女の体験が、のちの彼女の人生にどう影響したのか。そして、その苦しい時期に常に一緒に行動した「加代」の存在や関係性がどうなって行ったのか。とにかくどんどん壮大な話に展開されていく。

 

特に満州時代の話は、悲惨で苦しく辛い。本当によく生き延びたと言う言葉に尽きる。たった二人で日々生きることだけで精いっぱいだった場面は、何度も何度も胸を抉られるような辛い内容であった。

 

物語は満州の話だけでなく、アイや富士子のこともちょこちょこと入る。後半に行くほど、びっくりさせられることが語られる。彼女たちの人生もまた色々なのだ。

 

とにかく、「えぇーーーー」となることがたびたび起こるので、まったく目が離せない、本が手離せない。そしてラストへ向かうのだが、これがねえ、ちょっとおかしな展開になっちゃうんだな。ここさえなければ....と、やっぱり惜しい。

 

でもでも、なかなかの読み応えだった。いつか読んだ「世界の果てのこどもたち」を思い出す。壮絶な満州引き揚げの話、特に犠牲になった子供たちの話は本当につらいものがある。でもそんな中、戦いとは関係なく助けてくれる人が居る。そんな小さな救いがいつも心に希望という名の灯をともしてくれる。本書にもそんな助けが彼女たちの命を繋いだ。

 

認知症になってしまった益恵さんの最後の旅。益恵さんが見た風景はどんななんだろう。幸せな旅であったこと祈るばかりです。でも、こんな風に旅に付き合ってくれる女友達、そして旅を提案した夫の優しさが本当に沁み入る。大変な過去を持つ益恵さんではあるけれど、ここから先は穏やかな時間を過ごせることを切に願う。

 

....と同時に、自分の晩年はどう過ごすことになるのだろう?そんなことまで考えてしまった。元気なうちにあちこち行って、久しぶりの人達とどこまで会うことができるのかとかね。人生のまとめ旅みたいなもの、考えちゃうよな。

【つなぐ本】本は本をつれて来る

*満州で過ごした子どもたち
生きるためには、ただただそれを受け入れていくしかない状況。そのなかで彼女たちが「糧」としていたものはなにか?3人の少女たちがどんな時代を生き抜てきたか。オール世代におすすめの一冊。

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