あひる:今村夏子著のレビューです。
感想・あらすじ 来るね、来るねー じわっ、じわっと・・・。
あれ?
なんか変じゃない?
あれ?
なんか妙じゃない?
表題「あひる」は、読んでいるうちにちょっとずつ、ちょっとずつ首を傾げる頻度が
上がって行く。ざわついた気持ちが止まらなくて、結局一気読みしてしまいました。
ある家族があひるを飼うことになった。あひるの名前は「のりたま」。あひるが来たことによって、庭には近所の子供たちが見に来るようになり毎日がとても賑やかになった一家。
異変はあひるの具合が悪くなって病院へ行ったことからはじまる。しばらく入院したあひるは回復して戻ってくるのだが、それは「のりたま」ではなく、他のあひるなのだ。
しかし、家族は何事もなかったかのように、新しいあひると過ごしている。
もうこの時点で「なぜ?」という気持ちがいっぱいなのだが、物語はまるで読者を無視するかのように淡々と続く。
やがてギシギシと音が聞こえてくるような違和感が重なり不穏な空気が満ちてくる。近所の子どもたちの様子すらも妙な感じに・・・。
なぜこんなことになってゆくのか・・・掴みどころはない。この闇っぽいものを感じさせられる得体の知れないものは、一体なんなんだろう。
それはきっとこの家族が長年溜め込んできた心の中の澱であり、心の渇きじゃないか・・・と。
ホラーでもない。日常を淡々と描いているに過ぎないのに、こんなにも気持ちがざわつかされる内容をコンパクトに仕上げているあたりが凄いと思う。
薄い本でしたが、濃密な時間を過ごしました。
※他、短編「おばあちゃんの家」、「森の兄妹」2編
文庫本(角川文庫)