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【レビュー】夕べの雲 :庄野潤三

 

 夕べの雲 :庄野潤三著のレビューです。

夕べの雲 (講談社文芸文庫)

夕べの雲 (講談社文芸文庫)

 

 

晩年にもう一度手にしてしまうだろうな…。

日が昇って、日が沈む。
何度も見る当たり前の風景だけど全く同じ風景ではない。

自然豊かな丘の上の家に引っ越してきた大浦家の人々の生き生きした会話を通して、そんな些細な変化や出来事を見ながら、読者も様々な情景に思いを馳せるのです。

 

時に懐かしく、時に微笑ましく、時に時間をかけて失ったあの頃の風景だったりと。

決して大きな変化や事件が起きるわけではない。通常なら「何か」を期待してしまいがちの自分。でも、この小説に関してはそんなことはちっとも思わず、ずっとこの穏やかな時間を保っていて欲しいという気持ちが途中から芽生えていました。

 

作家である大浦と妻、そして娘の靖子、息子の安雄と正次郎の5人家族。ちょっと読んだだけで、この家族に好感がもてるというのもこの話の魅力のひとつ。

 

特に子供たちがとてもいい。私が好きなシーンは…正次郎が風邪を引いた部分。
本当に普通の光景なんですが思わずクスリと笑ってしまいました。

「寝る前に大根おろし、作ってあげるから。梅干しと熱いお茶に入れてお醤油を落として、おいしいの作って上げるね。」と母親が言うと、いきなり安雄が猛烈な咳を始めた。靖子まで咳を始めた。

 

結局、子供三人はこの「おいしいの」をそろって飲むのです。
こんなシーンの子供に出会うと、無条件になんだか嬉しくなってしまう。
子供の無邪気さになんだかホッとし、そして親の温かさに包まれた気持ちになる。

 

この小説は、大人の立場、子供の立場、両方の視点で見られることが楽しくもあり、情景も浮かびやすいというのもあって、自分の中で勝手にフィルムが回りはじめているような感覚がありました。なので淡々と読んでいるようで実は結構忙しかったのかも?
なんて振り返ってみて感じました。

 

どう言ったらいいのかな…。
夕日を背中に早くお家に帰りたくなるという本でもあるし、何故だかわからないけど、晩年にもう一度読みたくなるであろうと思わされた本でもありました

 

庄野さんの奥様、写真が載ってましたが、まさに「細君」って感じの方ですね。
これまたイメージ通り(笑)