浮浪児1945:戦争が生んだ子供たち:石井光太著のレビューです。
感想:オール世代必読の1冊
戦争で食料難であったことは誰もが知っている事実だが、実際どのくらい「食べる」ことに困り、その時代に生きていた人々がどのようにその時間を乗り切ったのか?これだけ飽食の時代に生きている私たちには、それがどれほど大変であったのかは、想像することすら難しい。
配給であったり、闇市であったり、農家の方と物々交換という形で食を繋いでいたという話はよく聞く。道端の草までも食べていたという話も耳にする。自分が具体例で浮かべられるのはこの程度である。
しかし、本書を読んで「食べるもの」に対して人はここまでしなければ辿りつけなかったんだという衝撃的な事実を知り、ただただ自分の知っていたことがいかに浅いものであったかということを何度も何度も感じた。
その全てを私たちに教えてくれたのは、1945年、家族を失い、焼け跡に残された全国で12万には居たという戦災孤児たちである。
夢中で読んだ。
章の区切り目さえも覚えていないほど。
壮絶な話に、何度耳を疑い、知り得ない風景を心の中で描いては心が幾度締め付けられたことか。
この本を読むにあたって、もっと覚悟すべきだったかもしれないと、何度も立ち止まる。
妻や子供に語れない過去を生きる人生。「自分の体験を上手く伝えられない」という方がいたが、そうなんだと思う。後ろめたい、恥ずかしい、知られたくないということじゃない。どんなに語ってもこの経験をした者同士ではなきゃ解らない出来事ばかり、語っても語り尽くせない部分がたくさんあるからだろう。
それでも言葉にしてなんとかこの世に証言を残してくれた人びと、また、それをまとめて本にしてくれた著者には本当に頭が下がる。絶対に後世に残さなければならない話である。
浮浪児のいた日本から見える今の日本の姿
内容は割愛させてもらいましたが、今の日本の姿と、浮浪児のいた日本の姿を、是非、自分の目で読んで感じて、比較してみて欲しい。
もうひとつ。
こんなに過酷な体験談や記録を読み、ひどく暗い気持ちになったかと言うと、
決してそうでもなかったことも言っておきたい。それは不幸のなかにも、その時代はえらく人と人との距離が近く、人情を感じるシーンもちらほら見受けられる。こんなに裕福になった今の日本が失ってしまったものが、逆に浮き彫りになったような感もある。
「がむしゃらに生きる」ということ。
「嫌な経験」と捉えない体験者の強さ。
「大人から愛情を与えられた」という子供時代の経験の大切さ。
このあたりの話が特に印象的であったが、まだまだ書き切れないほど大切なことをたくさん教えられた。
上野はあまり馴染みがないのだが、今度地下道やアメ横界隈を散歩したいと思う。今まで見えていた風景がまったく違ったものに見えそうな気がしている。
石井さんのノンフィクションを読むのは2冊目だが、いつも打ちのめされる。
覚悟して読むという心構えが必要だ・・・と痛感。「戦争」のことを知る上で、オール世代必読の1冊だと思う。
文庫版