地球の中心までトンネルを掘る: ケヴィン・ウィルソン著のレビューです。
★本が好き!の献本書評です。
感想・あらすじ 「どの話が一番のお気に入り?」と語り合いたくなる
タイトルにものすごく惹かれて読んでみたいと思った作品。11編の短編集。
すごく共感したとか、こころを揺さぶられるとか、そういう類の本ではなかったけれど、あそこにいるあの人の様子が気になってしょうがない、次はどんな話が待っているのか?そんな楽しみが控えているような作品でした。
・祖母募集します:経験不問 ──「替え玉」
・三年まえ、ぼくたちの両親は発火した ──「発火点」
・今は亡き姉の最後の食事は、一般的に真っ黒焦げである ──「今は亡き姉ハンドブック」
11の話の最初の3編から引用した。
本書はこんな風にグイッと読者を本の中に閉じ込めてしまうような気になる言葉が散りばめられている。
「おっ?」「うぅ・・なんだろう?この訳のわからない感じは??」
気づけば次の話では何が起こるんだろう?と、どんどん読みたい欲求が高まってゆくという・・・。
私のお気に入りは、「地球の中心までトンネルを掘る」、「ツルの舞う家」、「ゴー・ファイト・ウィン」。
「ゴー・ファイト・ウィン」
チアリーディングの女の子と、ちょっと変わった少年が出てくるアメリカのYAのような雰囲気。
「ツルの舞う家」
仲の悪い兄弟たちの相続問題で陰湿なものになりがちな設定ですが、千羽のツルがその行方を決めると言うユーモラスな話。千羽鶴ということで日本に纏わる話も。部屋に舞うツルのシーンはとても映像的。孫の目を通して見る登場人物たちの醜い必死さが滑稽に映る。
「地球の中心までトンネルを掘る」
社会へ出る前の宙ぶらりんな時期の若者のことが描かれる。来る日も来る日も庭に穴を掘り続けて行く彼ら。死体が出て来たり、人の家の地下室の壁をぶち抜いたりしながら、穴の中で生活を続ける。掘る作業には一見終わりがなさそうに見えるのだが、それでもやはり終わりを迎える。人生の中のほんのわずかな夏休みが終わったんだな・・・
という感じを残すラストが好き。
短編なのであまり内容には触れられないのですが、どの話も個性があり、期待に十分応えてくれるものでした。「どの話が一番気に入った?」と、読んだ人たちと語り合いたくもなります。
文庫本