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【レビュー・あらすじ・感想】花を運ぶ妹 :池澤夏樹

 

 

花を運ぶ妹 :池澤夏樹著のレビューです。

花を運ぶ妹 (文春文庫)

花を運ぶ妹 (文春文庫)

 

 

感想・あらすじ 素敵なタイトルには読後にじんわり酔わされた。二日酔いみたいな小説だな

 

内容に惹かれて読んだというより、池澤さんが、バリという島をどんな雰囲気で描くのかとても興味があり手にした一冊。

 

濃厚な空気感と、自然豊かな土地。鮮明な色を持った花。
カラッとした空、底抜けに明るい海、人々の笑顔。

 

反面、ガムランの音が聴こえて来ると闇夜の中から何かが現れそうな…。
そして、死者すらも身近に感じさせられる何か…。

 

何度か訪れていますが、時間を隔てても毎度必ず不思議な夢を連続小説のようにみるという…もうそれだけで、私にとっては神秘に満ちた島となっています。何か島自体に「中毒性」があり、離れると無性に恋しくなるんだなぁ。

 

 

 

 

画家の哲郎は、麻薬所持の疑いでバリ島で逮捕される。インドネシアの法律に基づくと、死刑の可能性もあることが判り、それを知った家族、特に妹のカヲルは兄を助けようと躍起になる。

 

本書、奇数の章は妹、偶数の章は兄の話になっていて、兄の海外放浪、麻薬に手を出すにいたるまで、この兄の章で読者に徐々に明かされて行く。

 

そんな兄のもとバリへ飛ぶ献身的な妹。
右も左も言葉も解らない異国の地で、大きな問題を抱えながら日本とバリを行ったり来たりしながら人脈を利用し、解決への糸口を探る。

 

妹の懸命な姿に比べると、兄は今ある現状と過去を淡々と見つめている。
この温度差がなんとなく刑務所と外の世界の違いとでもいうのだろうか…。

 

前半は行方が見えない絶望感が付きまとうが、後半は希望が見え始める。
この島の特徴を活かしたともいえるような妹の変化こそが希望の光になっていく。

 

そう、ここは神々が息づく神秘の島なのだもの。ひょっとしたら、そんなこともあるかもね。…と、島に足を踏み入れたことのある方ならこんな風に思えるはず。

 

 

 

 

登場人物に共感するとか魅せられるとかなはなく淡々と読み進めた。後半に行くほど何故、池澤氏がこの地を舞台にしたのか、いや、この地じゃなきゃならなかったんだな…ということがうっすら理解できた。

さて、この兄妹、この経験を踏まえ、どんな未来を、どんなものに気づけたのだろうか。心地良いラストでした。

 

小説を読みながらある香水の匂いが鼻の奥をくすぐっていた。
池澤氏の描くバリ島は嗅覚の記憶まで呼び起こす不思議な魅力がある作品でもあった。

 

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