銀花の蔵: 遠田潤子著の感想です。
人の一面だけを見てその人のことを判断するということは浅はかなこと。ということを突き付けられる
なにかずっと暗い影を纏った小説だったなぁ。
時は「大阪万博に沸く日本」という昭和。どんどん未来が開けていく雰囲気、賑やかさを増す日本ではあった反面、まだまだ鬱々とした部分も残す。
奈良に醤油の蔵を持つ父の実家。10歳になる銀花は、家族と共に父の実家に引っ越してきた。このお蔵、なんでも座敷童が出るという言い伝えがある。この座敷童を見た者が家業を継ぐことが出来る。ちょっと民話のような話からスタート。
ここには大変厳しい祖母と、銀花と歳の近い美人でワガママな叔母が住んでいる。早くも同居生活に暗雲が立ち込めているわけだが、それに加え万引き癖のある母親と、家業に不向きな絵描きの父親。銀花を取り巻く家族には問題が山積みだ。
とにかく様々な人間の謎や闇がそこかしこに潜んでいる。最初は嫌な人物だと思って読み進めていくと、実はこの人にはこういう過去があって...となる。人の一面だけを見てその人のことを判断するということがいかに浅はかなことなんだ.....と、何度も思わされた。
例えば銀花の母親はちょっと可哀そうな人でいつもメソメソしているんだけど、料理が上手で、まるで少女のような心を持つ人。いつも母親の尻ぬぐいをさせられ、その都度イライラ、そんな日常をずっと繰り返している銀花。しかし成長し大人になると、その時見えなかった母親の気持ちに気づかされる。この小説には本当にその人の過去を炙り出さなければ判らないことがいっぱいあった。
そしてもうひとつ。家族というものについて。最終的に銀花の家族がどういう形態に変化していくかが見どころです。血が繋がっていようがいまいが家族は築いていける。そんな人間の逞しさをこの物語は教えてくれている。
余談ですが万引きを繰り返す母親については、そのことを隠すのではなく、どこかに早く相談すればいいのにってずっと思っていました。家族だけで苦しんでいたけれども、もっと早くなにか手を打てばいいのにってずっと悶々としました。他人に相談や助けを求めることせず家族の恥を隠す。これも時代、周りの雰囲気がそうさせたのでしょうか。
さて、座敷童は本当にいるのか?目撃者はあったのか?この座敷童もずっと気になりますが、こちらは読んでのお楽しみに。