ウエディングドレス:玉岡かおる著のレビューです。
【本が好き!の献本書評です】
防空頭巾を手離せずにいたお嫁さん。晴レの日なのになんて悲しい光景なんでしょう。
本書は戦中の東京、京都、姫路、パリそして大阪と舞台を移しながらふたりの夢見る少女が歩んだ長い道のりを描いたもの。
再会したレストランでお互い回想してゆくという形で話が進行してゆく。
現在から過去へ、過去から現在へと、幾つものシーンを切り替えながらゆっくり語られる内容から、私たちは「日本の花嫁衣裳の歴史」を知ることになる。
今も昔も多くの女性にとって特別な服と言えば「ウエディングドレス」。
あの純白のドレスを目の前にすると、誰しも思わず息を呑み、しばらく見とれてしまう・・・女性の美を引き立てるこれ以上のものはないであろうウエディングドレス。しかし、この二人の少女が当時目にした花嫁の姿は私たちが想像する以上に貧しいものだった。
「花嫁姿ちゃうやん」
ブラウスとさえ呼べないような上っぱりに、絣のもんぺ。
膝元おいてあるのは防空頭巾。それでもこの花嫁は褒められ、新聞まで載ったという。
学校帰りに見た戦時中の花嫁は彼女たちを失望させ、ちゃんと「花嫁衣裳」を着たいという気持ちを抱かせる。
戦争も激しくなりバラバラになった二人はお互い会うこともなく時間が過ぎる。やがて、玖美はウェディングドレスデザイナーとして世界に羽ばたき、窓子は貸衣装業を大きく発展させた。
生い立ちも性格も対照的な二人。
戦後に歩んだ道も生活環境も異なるが、日本女性の持つ底力の強さという点では共通するものがある。様々な困難をものともせず、ただひたすら前進するのみという姿が逞しくもあり清々しい。
あの日ふたりが見た絣のもんぺ姿の花嫁。
防空頭巾を手離せずにいたお嫁さん。
晴レの日なのになんて悲しい光景なんでしょう。
月日が流れ、純白ドレス姿の花嫁。
その手には華やかなブーケが微笑んでいる。
今では当たり前となったこの光景も、花を咲かせるためにコツコツと種を蒔き続けた人々の努力があったからこそ生まれたものなのだと強く感じさせられる小説でした。
これからウエディングドレスを着るか、着ないか?
迷っているお嬢さんがいたら、是非この本をおすすめします。