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桜木紫乃『情熱』レビュー|『もう』と『まだ』の狭間で息をつく

 

 

情熱:桜木紫乃著のレビューです。

☞読書ポイント 

五十歳前後から感じる前に進みたい気持ちと立ち止まりたくなる気持ち。その微妙な揺らぎが短い物語の中にギュッと詰まっている。人生の節目に静かに効くタイプの短編集。

 

 

 

情熱 (集英社文芸単行本)

情熱 (集英社文芸単行本)

感想・あらすじ 

男性の主人公の話が多かったかな。全体的に哀愁漂う話が多い。人間60年も生きて来ると、人間関係も自分の生きて来た道も、振り返れば随分と遠くにきたものだと実感する。また、人との永遠の別れを経験することも増えて来る。そういう経験の積み重ねから、自ずと自分の残りの時間も考え始めるのもこの時期なんじゃないかと思う。

 

残りの方が少なくなってきた人生後半。個々の過去を含め、自分をどう捉え、どんな風に他者と接しているのか。そんなことを考えさせられた1冊でした。「情熱」ってタイトルのように熱量がすごい小説かと最初は思ったのですが、むしろ、情熱の熱が冷めかかる余熱で生きている人々の物語といった雰囲気です。

 

 

 

短編集です。わたしが一番気に入ったのは「らっきょうとクロッカス」の男女です。これぞ大人の交際って感じです。なだらかな丘をゆっくりと進んでいく二人の関係が、近すぎず遠すぎずでとても良い。

 

女性はキャリアウーマンとして頑張ってきたにもかかわらず、50を過ぎ不本意な左遷ともいえる人事。生活の拠点も変わってしまう。

そんな彼女と、小説家の妻を亡くした男性との静かな関係がとてもいい。「らっきょう」が間に入り込んでいる感じもいいな。ラストで見るパッと花が咲いたようような彼女の行動も好き。

 

面白いなと思ったのは「ひも」。「老人俱楽部」という老人のホストクラブで働いていた70代の男性と美容室の店長をしている女性が一緒に暮らしている話。もう訳あり感がムンムン漂いますが、特別深刻なこともなく、でも将来的なビジョンも冷静に見つつ関係を続けているところにシニア男女の関係を感じさせられました。

 

もう一つ。「グレーでいいじゃない」では、分かり合えなかった親子間の話でグッとくる。ジャズピアニストの息子と、クラシックピアニストの母親との間には大きな溝があった。すれ違い状態で生きてきたふたりではあったが、息子が先に亡くなってしまったことにより、母親の想いががついに溢れ出す。この話も深く心に染み入る。

 

どの話も短いですが同年代にはツンツンと気持ちを揺さぶられる話が多いと思います。「もう」と「まだ」という言葉を行ったり来たりする年代。「まだ」って部分が少しでもあれば、まだ大丈夫。そんなことを感じさせせられる読後感。自分の中で何かが影ってきたなと感じたら是非読んでみてください。

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