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感想・あらすじ
オリンピックの代表選手は「金メダルを獲ります、狙います」という言葉を力強く言う。その言葉を聞いた私たちは心強く感じるし、応援しようという気持ちも高まる。スポーツ業界ではこんな当たり前になったことも出版業界ではちょっと違う。
「直木賞が欲しい、獲りたいです」と、作家自らの言っているのをわたしはこれまで聞いたことがない気がする。一生懸命気持ちをこめて書いた自分の作品を認めてもらいたい。書いた私も認めてもらいたい。そんな承認欲求があって当たり前であるはずなのに、やっぱりこんなことを自ら言うのはちょっと勇気がいるんだろうなと。そういう奥ゆかしさがあるのも日本人のいいところだったりもするのだけど。
前置きが長くなりましたが、本作は「直木賞」が欲しくて欲しくてたまらない作家を描いた作品です。作家自身の秘めたる本音がたっぷり吐露されているだけではなく、編集者と作家の関係性、出版社や選考委員会、直木賞に関する様々な諸事情等々、非常にデリケートな部分にも触れている。裏事情的な話も多く、かなり生々しいわけだだけど、でもこれって、読者がこれまで知りたくてもなかなか情報として入ってこなかった部分なだけに本当に読んでいて面白いのです。

やぁ~村山さん、ほんとよく書いたよなぁ。読みながらなんだかハラハラ、ドキドキしてしまう。知らない世界を覗く感覚、まったくページをめくる指が止まりません。これって作家さんや同業者の方たちはどんな風に読むのだろう?読者とはまた違ったリアルさをもって読むのだろうか。実際、小説の中で「あの作家だろう」と思われる解りやすい人名が出てきたりするものだから、そのあたりもドキドキする。
村山さんご自身も直木賞を受賞されるまで意外にも時間がかかったようですよね。売れっ子作家なのに、直木賞に辿り着けなかったということで焦りやジレンマがあったのかもしれません。だからこそ、今回このような生々しい感情やリアルな会話のやり取りが描けたのでしょう。「認められたい」「直木賞作家という肩書き」が欲しいという承認欲求が出てくるのも、自然なことのように感じます。
とは言え、村山さんの作品が好きで読んで来た読者のひとりとしては、別に村山さんが直木賞作家であろうとなかろうと、作品が読めればあまり関係がなかったりする。ファンなんて案外そんなものですよねぇ。
おっと、どうしても村山さんのことと物語がダブってしまいますが、本作の主人公、天羽カインという作家は気が強くてトゲトゲした印象でなかなかの曲者。村山さんのイメージとは全然違います。そして天羽と伴走する編集者の紘子はまっすぐな性格で、ちょっと怖いくらい天羽にのめり込んでいる。軽井沢の天羽の自宅で寝食を共にしながら編集の仕事に没頭する。公私混同と会社からは非難されても、天羽に必要とされていることに生き甲斐を感じている。
外野がどうあろうと二人の信頼関係は厚く、「直木賞」に向けて突っ走るわけだが、後半は怒涛の展開が待っています。もうここからは席を立つのも嫌になるくらい目が離せない内容ですぞ!最終的は唖然とするラストを迎えるわけですが、中盤に出て来た「作中作」が効いてきます。これが本作を大きく揺るがすものに。
ネタバレしたくないのでこれ以上は書きませんが、天羽カインのことはあまり好きになれない人物だったけど、最後に見せた作家のプライド、魂を守り通した彼女はちょっと格好良かった。なんだか武士みたいな人だなぁ。いろんな意味で承認欲求も昇華された結末にはあっぱれでした。
作家の承認欲求描いた作品ではありますがそれ以外に本に関わる人々のことが本当にリアルに描かれています。1冊の本を仕上げることの大変さを知る機会にもなりました。
ということで、村山作品のベストが自分のなかでどんどん更新されてゆく!もうほんと、いろんな題材を書きまくる村山さん凄いよなぁ。次はどんな嵐がやってくるか、読者もおちおちしていられませんね(笑)
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