檜垣澤家の炎上 :永嶋恵美著のレビューです。
☞読書ポイント
感想・あらすじ
やー長かった!久しぶりの800ページ近くの文庫本。のんびり読んでいたらあっという間に返却日が迫っていて焦りました(笑)ということで、かなり読みごたえがあったと言える本書。解説の方が書かれていましたが、雰囲気は「細雪」「華麗なる一族」といった「一族もの」の文学です。そして、こうした一族ものにミステリーテイストも加わる。その部分は「犬神家の一族」。どうでしょう、この界隈が好きな方にはたまらないのでは?と思います。
かくゆうわたしもこのあたりの文学が大好きなのでどっぷりハマりました。解説の方のおっしゃる一族ものに加え、「小公女」や吉屋信子の少女文学も見え隠れ。そしてちょっぴり昼ドラのテイストも入ったりで、長編でも退屈せず読めたのも個人的は納得でした。
長いので、あらすじは簡潔にまとめてあるものから引用します。
横濱で知らぬ者なき富豪一族、檜垣澤家。当主の妾だった母を亡くし、高木かな子はこの家に引き取られる。商売の舵取りをする大奥様。互いに美を競い合う三姉妹。檜垣澤は女系が治めていた。そしてある夜、婿養子が不審な死を遂げる。政略結婚、軍との交渉、昏い秘密。陰謀渦巻く館でその才を開花させたかな子が辿り着いた真実とは──。小説の醍醐味、その全てが注ぎこまれた、傑作長篇ミステリ(Amazonより)
檜垣澤家、ちなみに読み方は「ひがきざわ」です。いかにも由緒あるっぽい名前です。最初は妾の子がこの一族に加わり、大奥様や姉妹たちいじめられ、耐えるというお涙系の小説だと思っていたのですが、主人公である「かな子」は、かなり腹の座った少女で、賢く、人間観察に長けていて、何事も自分で一度立ち止まって考える力がある。
檜垣澤家は女系で全てを支配しているのは大奥様である「スヱ」で、男たちは早く亡くなったり、婿養子だったりで影は薄い。そしてスヱの長女、その娘たち、みんな個性的で、それぞれの思惑が飛び交っている環境。また、檜垣澤家に奉公している女中、書生、お付き合いのある人々など、長編なだけに登場人物も多岐にわたる。
それゆえ誰がいい人なのか、悪い人なのか、とか、婿養子の不審な死は一体どういう事なのか?等々、陰謀蠢く館に、私たちも巻き込まれながら読み進めることになる。
謎が多いだけに殺伐とした雰囲気になりそうだけど、本作の面白さは、大正時代の横浜の様子や、いわゆる今でいうセレブ達の社交や生活、そして檜垣澤家の女性たちの優雅なファッションなど、女性心をくすぐるシーンも満載です。そこに結婚や恋愛なども登場するので終始目が離せません。
話題に事欠かない一族に身をおくかな子。彼女はこんな思いをずっと持ちながら、虎視眈々といつかは...という気持ちで成長する。その逞しさには舌を巻く。亡き母の言葉「人の顔色、声色、腹の色を見ること」を叩き込まれた彼女の行く末は?そして檜垣澤家は?
タイトルの意味がまさになのだけど、ラストは意外な真実が解り、いろいろな気持ちが押し寄せてきた。と同時に、どんなに金持ちでも自然災害には抗えない。いつの時代も日本は繰り返される震災に翻弄されながら立ち上がっていく国、そして国民なんだと改めて思う。
ということで大きな物語でした。これだけボリュームがある作品を読むのは今年最後かな。作者の永嶋さんには、今後もこういう作品を書き続けていただきたいなぁって強く望みます。最近このような作品が少ない、けどファンもたくさんいるはずなので。これから読む方は、切れ目なく読むためにたっぷり時間を抑えておいてくださいませ。
永嶋恵美プロフィール
1964(昭和39)年、福岡県生れ。広島大学卒。1994(平成6)年、「ZERO」でジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞し、映島巡のペンネームでデビュー。ゲームや漫画のノベライズなどを手掛ける。その一方で、永嶋恵美として、エンターテインメント小説を執筆。2004年に発表した『転落』が大きな注目を集める。2016年、「ババ抜き」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞。ほかに、「泥棒猫ヒナコの事件簿」シリーズ、『せん-さく』『一週間のしごと』『明日の話はしない』『視線』『なぜ猫は旅をするのか?』『ベストフレンズ』などの作品がある。(新潮社・著者プロフィールより)
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