財布は踊る:原田ひ香著のレビューです。
☞読書ポイント
感想・あらすじ
いつもどんな小説なんだろう?って思わせてくれるタイトル作品が多い原田ひ香さん。今回も「財布が踊る」って何だろうと思議な気持ちにさせられたわけだけど、読み終わってみると「嗚呼、確かに踊っていた」と(笑)
そんなこんなで面白かったです。ひとつの物が、様々な人の手に渡りながら、その人の生活を映し出す。今回選ばれたのが「財布」だったのです。
こういう物語、かつて「本」を題材にしたものを読んだことがあり、ロマンを感じましたが、これが「財布」となるとお金が絡んでくるのでかなりリアル。幸せも不幸もこの財布からやって来ては消えていく....みたいな感じがなんとも人生を象徴しているように思えます。とにかく読み始めると、様々な人々の「お金の事情」に出合います。
最初に登場するのは、家族でハワイ旅行をしたい夢を叶えるために、しっかり貯金をしてきた主婦。念願叶ってハワイへ行って、ルイヴィトンの財布を買う夢も果たし日本へ戻ってくるのだけど、夫がやらかし.....。やがてこの財布が様々な人の手に渡っていく。
人々の生活は現代社会で問題になっているものも多い。怪しい情報商材の勧誘をする者、投資で大損をする者、奨学金返済に苦しむ者、そして、風水研究家。皆、何かしらのお金の問題を抱えている。
わたしが一番気になったのは、奨学金返済に苦しんでいる2人の女性。働いても働いても返済に追われ、将来に希望が持てない若者。そこに風水研究家の善財が登場し、二人に投資のアドバイスを持ち出す。これが吉と出るか....かなりハラハラしながら読み進めていくことになるのだが、うーん、これって本当に「賭け」なんですよね。
にしても、奨学金問題は本当にシリアスでした。将来を考えてちゃんと大学へと進学したものの、その先にあるのは「借金返済」で貧困生活へ落ちてしまうという。このサイクルをどうにか食い止める体制を整えてもらえないものかなぁ。本作で印象的だったふたりの女性の切ない会話。
そんなこんなで、ヴィトンの財布は持ち主を変えながら最初の主婦の元に戻ることになるのです。ちょっと奇跡的な展開なんですが感動的。ヴィトンの財布を購入し、そして手放し年月が経ち、彼女の生活も以前とは全く違うものになっています。何はともあれ色々あった人々も、前を向いて歩き出している姿に一安心...という物語でした。
話のつなぎ方が良かったなぁ~。前の話に出てきた人の行方も何気に他の話で明かされていたりするので、「おぉ!そうなんだ」って面白く読めました。よくできた小説でしたよ。
原田ひ香プロフィール
1970(昭和45)年、神奈川県生れ。2005(平成17)年「リトルプリンセス2号」で第34回NHK創作ラジオドラマ大賞受賞。2007年「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。著書に『三千円の使いかた』『そのマンション、終の住処でいいですか?』『古本食堂』『一橋桐子(76)の犯罪日記』『ランチ酒』『事故物件、いかがですか? 東京ロンダリング』『人生オークション』『母親ウエスタン』『彼女の家計簿』『ミチルさん、今日も上機嫌』『三人屋』『ラジオ・ガガガ』などがある。(新潮社・著者プロフィールより)