あいにくあんたのためじゃない:柚木麻子著のレビューです。
☞読書ポイント
感想・あらすじ
全体的にわちゃわちゃしていて、なんだかいろんな会話に呑み込まれながら読み進めて行ったらパッと終わっていた....そんな話が集まった短編集でした。
現代社会の人と人との繋がりのひとつであるSNSから起こるトラブル、怒りなどが噴出する感じが今っぽいなぁと思わされる。へぇ~こんな感じでSNSを活用している人もいるのか...とか、SNSで抱える鬱憤って溜まり続けると怖いなぁ~とか、とにかくいろんなケースがありました。
柚木さんの作品のは、女性たちの気持ちがぎゅうぎゅうに詰め込まれたこってりした物語って印象がありますが、本作は短編なだけにわりとあっさり目に感じます。そして、この中で自分が気に入った作品はやっぱり女性たちの話だった。
「トリアージ2020」という作品はコロナ禍の妊婦の話。コロナ、妊娠、悪阻、シングルマザー、食欲不振等々、今思い出しても特にこの時期の妊婦さんは本当に大変な経験をしたことと思います。主人公の女性は、そんなコロナ禍の孤立した環境の中で、実際に会ったこともない女性とのつながりから救われるという話。
実際、彼女の食事などを手伝ってくれたのは、会ったこともないSNS上での友達の母親。SNS上でここまで助け合いが可能なのだなという心温まる話でした。せっせと気の利いた食事を差し入れしてくれる女性とのわずかな会話から、ちょっとずつ元気が出て行くような話でした。
もうひとつ、読む前から気になっていたのが「商店街マダムショップは何故つぶれないのか?」です。どの街にも必ずこういうお店ってあると思う。あまりお客さんが入ってなさそうなのに潰れないでずっとある。そんなマダムショップを扱ったのがこの作品なのですが、これはちょっと途中から不思議なテイスト感に。カエルの置物がいい味を出しています(笑)潰れずに残っているお店にには、意外な役目があるのかもしれない!そんなことを感じる内容です。
ということで、柚木さん、どんな思いをこの作品に込めてたんだっけ?って、「王様のブランチ」のインタビュー内容を読み直してみました。
今、社会で窮屈な思いをしている人とか、自分がフィットする場所がこの社会にないと思っている人が、誰かと手を取り合えるとか、そういうきっかけになるといいなと思って書いた。
とのこです。確かに誰かと手を取り合い、そして自分の居場所を見つける。そんなことを感じさせられる作品だと感じました。タイトルはパンチが効いていますが、意外にも温かいかも!?
追記
直木賞候補作なんですって。個人的には柚木さんの作品、もっと面白いのがたくさんあるんだけど、何故今なの~何故この作品なの~って思ったり。応援はしているんですけどね。
柚木麻子プロフィール
1981年東京生まれ。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、2010年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。ほかの作品に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『本屋さんのダイアナ』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『ついでにジェントルメン』『オール・ノット』などがある。(新潮社・著者プロフィールより)
合わせておすすめ