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【書評・あらすじ・レビュー】夜露がたり:砂原浩太朗

 

 

夜露がたり:砂原浩太朗の感想です。

☞読書ポイント 

江戸の人情味溢れる小説とはひと味違った短編集。自分の努力だけではどうにもならない宿命や定めを感じさせられる物語。いつの時代も現実の厳しさに苦しむ人々。それでも明日はやって来る。読み易いので、時代ものの入門書としても!

 

夜露がたり

夜露がたり

感想・あらすじ 

新潮社・中瀬ゆかりさんのおすすめの時代ものです。私もですが、中瀬さんもあまり時代ものは読まないとのこですが、それでも年に1,2度、本当に面白かったという時代もの小説を紹介してくださいます。(これがハズレなし!)で、今回は「夜露がたり」が登場。著者の砂原さんのことははじめて知りましたし、読んだこともない作家さんですが、強いおすすめに促され、早速読むことにしました。

 

時代もののなかでも江戸時代の庶民の生活は比較的読み易いものも多く、なんだかんだ苦労も多いけど、人情味に溢れた世界、ラストはカラッと爽快なストーリーが多く、個人的に大好きです。しかし本作は、それらと真逆とも言えるじめっとした雰囲気。タイトルの「夜露」っていうのがとてもしっくりと来る。

 

 

 

 

 

8編の短編集。全体的にそこから抜け出せない「宿命」のようなものを感じさせられるものが多い。短い話の中に凝縮した各々の人生が詰まっていて、ハラハラしたり、ビクビクしたりと、彼、彼女たちの行方が気になる場面が続く。

 

基本的には時代は違えど、人間のどうにもならない部分と言うのはいつの時代も変わらない。例えば、博打に入れ込んで、家族の人生をも巻き込んでどん底に落ちて行くなんて話は、現在も繰り返されているし、生まれた環境や親によって、どう頑張っても変えられない不条理など、物語のなかの人々も、現代に生きる私たちも同じように苦悩しているがわかる。

 

「死んでくれ」ってタイトルがあります。ドキッとするタイトルですが、これは借金を作り、行方不明になった父親が突然娘に会いに来るという話。父親はさらに借金を作り、その穴埋めを頼みに来たのだ。博打で借金を重ねるギャンブル中毒の父親に対して娘が放った言葉は、

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言ってしまった言葉は嘘じゃないし、心底そう思ったのだろう。しかし、小さくなっていく父の後ろ姿を見送りながら、もっていき場のないやり切れない気持ちが襲ってきた娘の姿は、なんとも言えない胸が詰まる話だった。

 

 

 

 

こんな感じで、スカッとしたラストには至らず、「これが現実」という部分を突き付けられる重い結末が本作の特徴です。他にも島送りになった夫が戻ってきたり、未亡人との結婚、貧しい長屋で育った子どもたちや、妾の子など、行く先が不安な話が多く、どれも目が離せない話ばかりでした。

 

今回初めて砂原さんの作品でしたが、内容は重めですが、それを救ってくれるのが、風景描写の美しさ。ふわ~っと情景が目の前に浮かんでくるのがなんとも心地よかったです。

 

ということで、大変読み易かったです。時代ものの入門書としてもありかも!砂原さんは星新一さんのファンだそうですが、その影響があるのか、本作も短編の醍醐味を見せてくれるものがあると実感しました。

 

・砂原浩太朗プロフィール

1969年生まれ。2016年、「いのちがけ」で、決戦!小説大賞を受賞してデビュー。2021年、『高瀬庄左衛門御留書』が山本周五郎賞と直木賞の候補となったほか、野村胡堂文学賞、舟橋聖一文学賞、本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞、2022年には『黛家の兄弟』で山本周五郎賞を受賞した。著書に『いのちがけ 加賀百万石の礎』『霜月記』『藩邸差配役日日控』などがある。(新潮社・著者プロフィールより)

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