教誨師:堀川惠子著のレビューです。
☞読書ポイント
感想・あらすじ
何も考えずに気になって手にした一冊でしたが、本当はもう少し心の準備をしてから読んだ方がよかったのかもと思うほど、内容は言葉で言い表せないほど重い。こうして感想を書くのも気が重い。
本を開くとたくさんの命が文字の上に乗っかっているかのよう。ひとりひとりの命の重さ、刻々と迫りくる死へ向かう時間、どのページからもそんな気配がひしひしと伝わってくものだから、結局読み終わるまでかなりの時間を要した。他の本を挟みながら、気づけば一か月くらいかかった。まったく読む気持ちになれない時期もあったりで。それでも後半は少しずつスピードを上げ、どうにか読了。
教誨師のはなしです。死刑因が、死刑執行までの時間に対話が出来る唯一の存在であるのが教誨師。彼らの話し相手として、また、ちょっとした教育や宗教などの教えなど、死刑因によって対応は多岐に渡るが、教誨師は常に冷静に彼らに寄り添っている。
死刑執行まで何度も対面し、ちゃんと相手のことを知り、人間関係も出来ている。そんな彼らの死刑執行に立ち会わなければならない役目である教誨師の精神的ダメージは計り知れないものがある。現に本作に登場する僧侶の渡邉普相氏は、50年もの間、教誨師の任務に就いていたのだが、後半はアルコール依存症になってしまう。
渡邉氏のすごいところは、自分がアルコール依存症であることを死刑因に隠さなかったこと。そのことによって関係性が逆に良くなったりと、やはり人と人との信頼関係を築くには、本音で語らうことが何よりも大事なんだなぁと感じる。
本作ではそんな渡邉氏が関わった死刑因との日々の対話が丁寧に綴られている。「わしが死んでから世に出してください」という約束のもとに出版されたもので、反響もかなりあったとのことだ。
自分もそうだけど、教誨師という存在自体、知らなかったという人の方が多数だと思う。誰もやりたくないという仕事は世の中にはたくさんあると思うのだけど、教誨師の仕事もその一つだろう。本当はこういう役目を果たした人には、ちゃんと世の人々に知ってもらうなり、表彰されるなり(もしかしたら、あるのかもだけど)があっても良さそうだけど、特殊な仕事ゆえ、前に出て来ることはないのだろう。
だからこそ、この本が出版された意味は大きい。また、「死刑制度」についても考えるきっかけにもなると思うのだ。自分にとって死刑執行は、ニュース速報で見るものであって、実感として伝わって来るものがなかった。「あぁ、ようやく死刑か」くらいの感想しか持てなかった。
しかし、本書を読んだ今、あの速報で流れる「死刑」の文字から、多くを感じ取れるようになると思うのだ。その中に、確実に教誨師の姿も私の中に居る。
読み始めから読み終えるまで、ずっと心がざわついている。こうして感想を書きながらも気持ちが整理されぬままだ。
これは取材が終わりかけた頃、渡邉氏の口から漏れた言葉だそう。このずっしりと来る言葉の重みを感じながら、深呼吸。読むのが辛い本でしたけど、その分得るものも大きな大きな一冊でした。
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こちらは佐向大さん原作・監督の教誨師の映画。大杉漣さんが主演。