ミライの源氏物語:山崎ナオコーラ著のレビューです。
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感想・あらすじ 源氏物語と山崎ナオコーラ
ちょっと早とちりしたかな?....っていうのも、源氏物語をからめた短編小説かと思っていたら、内容は全く違って、源氏物語の考察本のようなものでした。この手の考察は、酒井順子さんがよく書かれていますよね。源氏物語の考察は面白いので、山崎さんがどう読むのか、これまた興味深いです。
本書を読んでいてすごく気になったのは、人は古典文学をどう読むか?ってこと。山崎さんは、現代社会の問題点と自分の考えを交えながら読んでいます。特に山崎さんの出身大学が「源氏物語」の研究を盛んに行っていたとのこと。聴講する機会や、様々な情報を得る機会が多かっただけに、自分なりの「源氏物語」に対する考えを蓄積なさって来たという印象が強い。
ゆえに、「えー、そんな風に受け取るのか」「そこまで現代に寄せて考えなくても....」って思わないわけでもない。と同時に、私自身、いかにお気楽に古典文学を楽しんで来たかということを感じました。(ちなみに私も文学部出身、古典の講義は色々受講しましたが....。)私の場合はあまり現代社会と絡めることはないというか、あくまでも昔の話、しかも文学という括りで読んでいたせいか、めくるめく世界にうつつを抜かし、山崎さんのような息苦しい読書にならなかったのですね。
ただ、こうして見方を変えると、いや、ほんと酷い世界なんですよね。ちなみに本書では、ルッキズム、ロリコン、マザコン、ホモソーシャル、貧困、マウンティング、トロフィーワイフ、性暴力、不倫、ジェンダーの多様性、エイジズム、他、を取り上げる。源氏物語はこれだけ現代社会の問題を含んだ作品でもある.....ということが、山崎さんの本から感じ取れる。
いや、読んだ人はこれらの問題に気づいていたはずですが、これをどれだけ掘り下げてみるかは、本当に読み手次第ってこと。山崎さんはとてもまじめな方なので、このあたりをきっちり追究しようと試みている感じがしました。
これから源氏物語にチャレンジしたい方にとっては、読みどころがわかるので良い手引きになるかな。既読の方は、自分の読み方とどう違うか、どんなところに着目し、こだわって読んでいたのか....の違いが見えて来るのではないかと思います。
とにかく源氏物語は面白い。どんな入り方でもよいので、未読の方は一度読んでみると良いと思います。昔の人は今よりずっと慎ましやかな恋愛をしてた....という幻想とか、当時の恋愛のプロセスや関係性の不思議さや常識破りなど、興味深い要素が満載なのです。その上で山崎さんの書いたことを眺めてみると、さらに見えてくる部分がたくさんあると思います。
山崎ナオコーラ・プロフィール
気になる名前の由来は「コカ・コーラが好きだから」だそうよ。でも、「歳をとってきてすごく後悔しています」って。勢いで付けちゃったのね。でも、インパクトはすごくあるからいいかも!
1978(昭和53)年、福岡県生れ。埼玉県育ち。國學院大學文学部日本文学科卒業。卒業論文は「『源氏物語』浮舟論」。2004(平成16)年、会社員をしながら書いた「人のセックスを笑うな 」が第41回文藝賞を受賞し、作家デビュー。著書に『人のセックスを笑うな』『浮世でランチ』『カツラ美容室別室』(新潮社・著者プロフィールより)
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