カヨと私:内澤旬子著のレビューです。
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感想
なんとも不思議な気持ちにさせえられる本をを読んだなぁと言う気がしています。前半はタイトルのカヨというヤギと内澤さんのふたりきりの世界に導かれ、ちょっとふわふわした心地でいたのだけど、中盤からこの様相がみるみる変わっていき、一体どうなっていくのかと、ドキドキ感が強い感じになった。
童話のようなお話かなって思っていたのですが、実話なんですよね。小豆島で暮らす内澤さん。出身地は鎌倉だそうですが、家畜と一緒に暮らす生活が好きな彼女は小豆島に引っ越した。豚や馬など一緒に暮らす動物の候補からヤギを選んだのも、除草のお手伝いをしてもらうためだった。
ヤギとの性質ってどんなものか知る人は案外少ないと思う。私もその一人で、本書を読めば読むほどヤギの奥深さを感じることになる。草食系の穏やかで優しい感じがするんですけどね。しかしこれが「へぇ~そうなんだ」の連続。そしてカヨと内澤さんとの距離が徐々に縮まっていく感じに引き込まれる。内澤さんのカヨに対する気持ちがどんどん溢れて来て、内澤さんがヤギになったのか?カヨが人間になったのか?って思ってしまうほど一体化した生活が綴られていく。
しかし、そんなふたりだけの世界が一変する。カヨの発情期がやって来る。このあたりから、人間っぽく見えて来ていたカヨが、やはり動物なんだと感じずにいられなくなる。やがて、カヨのお婿さん探しなどバタバタしはじめ、いつの間にかカヨのお腹には赤ちゃんが宿り....。面白いのが、この先何度もカヨは妊娠するのだけど、「いつの間に~」って感じでお腹が膨らむ。
みるみる大ファミリー化していく内澤さんちのヤギたち。手放したり、出戻ったりとヤギの出入りも激しくなっていく中で、ヤギたちの上下関係やら、個々の性格、そして、内澤さんとヤギとの関係も目まぐるしく変化していく。そういう話も含め、「やぁ~大変そう」と思いながらも、内澤さんがヤギとともに生きることを、心底楽しみ、そして幸せそうな姿に感銘を受けるものがあった。
くすくす笑ったり、どうなるかとハラハラしたり、読んでいるだけなのにこれだけ感情が揺さぶられるのだから、内澤さんの苦労は相当なものだろうと。反対にカヨたちはこの生活をどう思っているのだろう?繁殖や去勢に関しては見過ごせない問題でもあり、そのあたりは飼う前からきちんと考えておかなければならない。そうしないとどちらも辛い思いをするってことを忘れてはならない。
そうそう、本書はイラストがたくさんあります。内澤さん、イラストレーターでもあるんですね。文章とイラスト両方書けるってすごい。内容にぴったりと合ったイラストでした。
内澤旬子プロフィール
イラストルポライター。海外諸国へ出かけ、製本、印刷、革鞣しなどの現場をたずねている。手作り本の制作販売、本作りワークショップを主宰。共著に『東方見便録』(斉藤政喜、文春文庫)、『アジア路地裏紀行』(下川祐治編、徳間文庫)、『遊牧民の建築術』(INAX出版)、『印刷に恋して』(松田哲夫、晶文社)など。(新潮社・著者プロフィールより)
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