小説「誰かがこの町で」佐野広美著のレビューです。
☞読書ポイント
佐野広美さんのプロフィール
佐野広美さんは1961年神奈川県生まれ。1999年、第6回松本清張賞を「島村匠」名義で受賞。「わたしが消える (講談社文庫)」で第66回江戸川乱歩賞受賞。
感想&あらすじ:同調圧力の本当の怖さとその行方(ネタバレなし)
怖かったなぁ。ちょっと変わった町の話かと思っていたけど、ここまで酷いとは想像してなかっただけに、この異常さを表す言葉が見つからない。とにかく異常で恐ろしい。その恐ろしいものを生み出すのが、我々人間たちであることが一番恐ろしいという。
舞台になった町はある高級住宅地。住民たちは「安心安全な町」と謳う。そのためには様々な取り決めがあり、住民たちはたとえそのルールに違和感があっても従っている。なぜなら「この町ではそういうものなのだから、従うのが当たり前だ」という暗黙の了解がある。守らなければ角が立ち、嫌がらせや村八分にされてしまう。何かを正そうとしたら、ここにはもう住めないことを彼らは知っているのだ。
しかし、この町に大きな変化が起きる。小学生が誘拐され、殺されてしまったのだ。小学生はこの町に住む子供。治安が良いとされた町であったのに殺人事件が起きてしまったことに住民たちの動揺が広がり、やがて事件を住民たちの手で隠そうと躍起になる。勝手に犯人を丁稚あげたり、隠ぺいしたり、口封じしたり。一体、なぜそこまでして、自分たちと町の体裁を守ろうとしているのか?
物語は、家族と幼い時に離れ離れになってしまった麻希の「家族探し」の話と、この町の異常な話とが並行して進む。途中から麻希の家族とこの町に接点があったことが判明。彼女はかつてこの町の住人であったのだ。夜逃げしたと言われる彼女の家族。しかし、何故、麻希だけが施設に入れられたのか?出自の真実を知りたくて動き出した麻希。果たして彼女の家族の行方は?そして、結末はいかに。
読みながら本当に惨い話だと思う一方、この話をうんと縮小させた先にかすかに見えたものは、私たちの生活にも少なからずこういう同調圧力や忖度、そしていじめがあることを感じずにはいられないこと。会社にいれば「長いものに巻かれろ」ってシーンは嫌でも経験することがあるだろう。学校での生活には大なり小なり「いじめ」はかなりの確率で存在しているだろう。おかしいと思っても声をあげられないことに無念さを感じたこともあるだろう。この町は私たちの生活で起きていることと、どこか根っこが一緒であることを気づかされる。
この物語から学ぶべき点はたくさんある。こんな時にブレーキを踏める勇気が自分にあるかということを終始問われているような作品です。ほんの些細なことであっても、それが行き過ぎるとここまで行ってしまうんだという教訓になる1冊でもある。
最後に、読み始めはわらわらと人が出て来る感じで、相関図が必要?って思いましたが、読み込んでいくと人間関係がしっかり見えて来るので大丈夫だと思います!
インタビュー(王様のブランチにて)
本作についてのインタビューの様子ですよ~。王様のブランチで放送された時の様子です。佐野さんの生の話を聴いてみよう!
りすさんからのnext本
「つけびの村」は、山口連続殺人放火事件の真相を探るノンフィクション。実話なだけにホントに怖い。住民の言っていることも意味不明だったり。こういう事件が日本にもあったってこと、覚えておかなくちゃね。