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【ブックレビュー・感想】この痛みに名前をつけてよ:橋爪駿輝

 

 

この痛みに名前をつけてよ:橋爪駿輝著のレビューです。

☞読書ポイント 

ひきこもり生活をしている一人の男性の話。世間から取り残された彼には、細々と繋がっていた人物がいた。救われる、救うってなんだろう。....痛みには色々あるけれど、こういう痛みもあるってことを感じよう。

筆者について

橋爪駿輝さんは熊本県出身。フジテレビに勤務していたそう。2021年に退社。高校時代から執筆活動をしていて、2017年には小説「スクロール」でデビュー。最近ではオリジナルドラマ『モアザンワーズ / More Than Words』にて初の監督も。YOASOBIの『夜に駆ける YOASOBI小説集 (双葉文庫)』(文庫版)で、特別収録として「ハルジオン」を収録。

感想:世間からひとり取り残される痛みとは...。

この痛みに名前をつけてよ

この痛みに名前をつけてよ

 

とにかく苦しい小説だった。小学校でいじめにあってからの不登校。そこから外に出られなくなったいわゆる「ひきこもり」の行方へを追った内容です。

 

かつては本人がこのままではダメだと思い、病院へ連れて行って欲しいと母に懇願した時期もあったけど連れて行ってもらえなかった。代わりに母に連れていかれたのは、よくわからない宗教施設。彼はその施設から逃げ出し、宗教と関わることはなかったのだが....。

 

そんな彼は結局ひきこもったまま40代へ。母親は出て行ってしまい、残った父親とも上手くいかないまま。外の世界との関係も絶たれ、孤独で辛い生活を送っている中、唯一彼の心を救って来たのは父親が依頼し家に来てもらうようになった鴨ちゃんの存在。

 

鴨ちゃんはいわば相談員みたいな人なんだけど、彼の部屋のドア越しで、特に何をアドバイスするわけでもなく、鴨ちゃん自身のことをとりとめもなく話して帰って行く。やがて、鴨ちゃんとの交流を通し、彼の気持ちにも変化が起きる。

 

 

 

以前、ひきこもりの男性が通学途中の子どもたちを殺した悲惨な事件が起きた。それに連鎖されたかのように、今度はひきこもりの息子を持つ父親がその息子を殺したという事件が起きた。その印象が強いのか、ひきこもりは良くないとされる傾向がある。果たして「ひきこもること」は悪いことなのか?

 

もちろん上記のようなことは決してあってはならないことなのだけど、ひきこもりを一括りにしてしまうことはとても短絡的で危ない。だからと言って解決策は解らない。けれども、本書に出て来る鴨ちゃんのような存在が、いかに世間から遠いところにいる彼らの救いになるかということは窺える。自分を少しでも気にかけてくれる存在がいることは生きる上でとても大切なんだと。

 

そうは言えども状況をなかなかを変えられないもどかしさと焦りがひしひしと伝わって来て本当に辛かった。そして、母親の不在からの別れ。父親とカオルの絶望。果たしてカオルの一家はどうなってしまうのか....。

 

細かく「章」を刻んでいるせいか、スルスルと読めてしまうのですが、内容はかなり重い。少し読んでは深呼吸をしたくなるような小説だ。タイトルの「この痛みに名前をつけてよ」とはよく言ったものです。この痛みは一体なんなのか....。

 

作者の橋爪さんは、テレビ局に勤務していたそうだ。小説や映像関係と、そのキャリは順調そうだ。そんな方が、一体どうして「ひきこもり」をテーマとした作品を作ろうと思ったのか。そして、こんなにリアルな「痛み」をなぜ知っているのか。そのあたりを聞いてみたいなぁ。

りすさんからのnext本

誰かに相談する、頼るってことはとても大切なことなんだよね。今回おすすめする本は、ブラック企業で働いていた若者の話。ものすごく疲弊している本人が、そのことすら気づかない。誰かに相談する暇すらもなく失われた命。もしかしたら相談することで救われたかもしれない。社会人になる前に、一度読んでおきたい一冊でもあるのよ。

 

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