Web Analytics Made Easy - StatCounter

うずまきぐ~るぐる 

*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【レビュー】この父ありて 娘たちの歳月:梯久美子著

 

 

この父ありて 娘たちの歳月:梯久美子著のレビューです。

☞読書ポイント 

名作を残した9人の「書く女たち」。彼女たちはどんな家庭環境で育ったのか。そして父親にとの関係はどうだったのか。生い立ちを知ることによって、彼女たちの作品に触れたくもなる1冊。名前は知っているけど....という作家が多い。

感想:娘たちの作品に潜む父親の影

この父ありて 娘たちの歳月

この父ありて 娘たちの歳月

 

梯さんの本を久しぶりに読みたくて調べていて見つけた一冊。どんな親子関係が取り上げられているのかは見ないで読み始めた。想像では、森鴎外と森茉莉のような、ちょとこってりめの親子関係が覗けるのではないかと思っていたが、ここに登場する「娘たち」と父親の関係はもっと複雑な事情と感情がそこにあった。

 

冒頭から話は強烈である。「置かれた場所で咲きなさい (幻冬舎文庫)」の著者である渡辺和子氏は、目の前で父が惨殺された過去がある。現場を目撃した彼女の思うことが、これまた唸ってしまうほど強い。

 

島尾ミホ氏の父へ向ける感情は、読み終わってなおもヒリヒリと痛みを感じるものがある。切ない。愛情をたくさん与えてくれた父を置き去りにし、結婚を選んで故郷を離れた娘は、最後まで後悔の念をもって生きることに。

 

島尾ミホ氏と言えば、彼女の夫が書いた「死の棘 (新潮文庫)」が有名だ。私はこの本を読み始めては何度も挫折してる。とにかく重くて、心が擦り切れて行く感じにやられてしまうのだ。しかし、島尾ミホさんの生い立ちやどんな思いで結婚をしたのかが解った今なら読めると思った。

 

 

 

興味を持った人物は石垣りん氏と萩原葉子氏。

「父と義母があんまり仲が良いので 鼻をつまみたくなるのだ」とうたう石垣氏。

一家を支えるために日本興行銀行で働くりん。私は詩については疎いのですが、りんさんのうたう詩は心に響くものが多い。ストレートな物言いは、潔さがあり格好がいい。今回、この本で彼女の作品を知れたことは大きな収穫だ。

 

萩原朔太郎の娘・萩原葉子氏。両親はともに親であることの自覚がまったくなく、その夫婦生活もハチャメチャで子にとって迷惑極まりない。こちらの家庭の話は、厳しい祖母や、やがて再会する母娘の話に興味が湧く。「蕁麻の家 (講談社文芸文庫)」は私の読みたいリストにずっと入ったままになっていたが、これは早々に読まなければ気が済まない。

 

その他、辺見じゅん氏、石牟礼道子氏などは、名前はよく見かけ、いつも気にはなっているんだけど....的な人々。今回、彼女たちの生い立ちを知り、興味の扉が開いた感じがした。良いきっかけになったと思う。

 

ということで、本書は「父と娘」の話はもちろん読み応えがあるのですが、私的には、ちょっと気になっていた人々が、どういう育ちで、どんな道を歩み、作品を作ったのか。その根っこになる部分を知ることにより、霧のようなものが一気に取り除かれたような感じがしたのです。

 

今まで読もうと思って読めなかったのは、彼女たちのことをあまりにも知らなさ過ぎていたからかもしれません。本当は知らないからこそ読めばいいのだけど、なにかそうさせないものがあったのでしょうね。私にとって本書はまさに「気になっているけど踏み込めなかった人々」がたくさん登場した1冊でありました。これを機会に読書の幅が一段と広がりそうな予感がします。

 

 

りすさんからのnext本

今回の本にも登場した茨木さんの本。とても雰囲気がある1冊なの。「わたしが一番きれいだったとき」を読めば、彼女がどんな時代に生きた人で、どんなお人柄だったかを感じられるのよ。茨木さんのお宅で静かなひと時をね。

www.readingkbird.com