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うずまきぐ~るぐる 

*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【レビュー】私のことだま漂流記:山田詠美

 

 

私のことだま漂流記:山田詠美著のレビューです。

 

☞読書ポイント 

「山田詠美」のこれまでを辿る。ファンで読み続けた読者にとっては、ちょっとした思い出の旅に出られるような感覚になる1冊。ご本人の話だけでなく、文壇の話など、鬼籍に入った作家たちのとの貴重な話なども。

 

山田さんのペン先から流れ出る言葉はまさに「宝庫」

 

とにかく楽しめた1冊。読み終わるころには「同窓会」に出席した気分になっていたものね。どうしてこんな気分にさせられたのかって?それはデビュー作 の『ベッドタイムアイズ』からエッセイを含め、彼女の作品は全て読み続けて来たからだろう。そんな読者にとってのご褒美本ともいえる1冊だと私は感じた。

 

もう読みながら「そうだそうだ、そうだった!」と、ポンちゃん(山田さんの愛称)の言葉に一つずつ頷いては当時を振り返った。芯ある言葉の数々は、昔言っていたことと全く変わらない。ブレないってよく言うけど、彼女の言動はまさにそれ。とにかく、ここまでポンちゃんに付いて来て良かったよ。....なんて長い年月を顧みては、目頭が熱くなったのです。

 

個人的な想いでいっぱいの前置きになりましたが、本書は山田さんの自伝とでも言おうか、これまでの人生を綴った一冊です。読み始めてまず感じたのは「おや?いつものポンちゃんと違うなぁ、やけにお行儀が良い」ってこと。それもそのはず。新聞に連載されていたものだということが判明。抑え気味なのね?けど、これはこれでやはり魅了される。

 

ポンちゃんがどんな幼少期を過ごしたのか、また、ちょっとおもろい家族という印象がある山田家の人々、山田さんと本との関係等々が淡々と綴られている。マーカーがあれば、どんどん線をひきたくなるような言葉の数々、山田さんのペン先から流れ出る言葉はまさに「宝庫」と感じずにはいられない。

 

 

そして私が一番読みたかったのは、ポンちゃんが大学を中退したあたりから。いよいよ本番だ!とばかりに、やんちゃなポンちゃんが登場する。このあたりからいつものポンちゃんの調子が!ひゃほい。

 

夜遊び全開、恋愛全開からの福生に移り住んだあたりの時代。昼から自堕落にアルコールを飲みながら読書したり映画を見たり料理したり、そして小説を書いていた当時の山田さんの生活が私の中でひとつの風景として浮かび上ってくる。

 

当時エッセイによく登場した編集者のお名前も懐かしいなぁ。今でも仲良くされているとのことで微笑ましく拝読。はっちゃけた時代を共に過ごした仲間とは本当に良いものですな。

 

わたしは山田さんの小説で「ジェンダー」について学んだひとり。性差別や人種差別、異文化、恋人や夫婦以外の男女が一緒に住むということがあるってことを知ったのも彼女の作品からだった。スパイク・リーの映画を観たのもそう。

 

デビュー作の印象が強いのか、当時山田さんを叩いた人が大勢いたのも見て来たし、「山田さんの作品=エロ、変態」みたいな目で見て、作品を軽視していた人もいた。もちろん、その後も、当時の印象だけでそういう目で見続けている人もいるとは思うけど、本質を見ずに切り捨ててしまうなんて心底もったいない。まぁ、時代が時代って言うのもあったわけだけど。

 

私自身、当時は人種差別、性差別等に関してそれほど知識も深い考えもなかったので、山田さんの小説にすんなり入っていけたわけだけど、今でいう「多様性」が存在するってことをきっちり教えられたのは確かだ。また、同性愛も異性愛も特別なことでないということも。

 

やがて彼女の言ってきたことが、仕事をする上で、ゲイの友人と付き合う上でのひとつの指標となった。ジェンダー云々が今みたいに語られる前の時代の話。本書を読み、再びそれらの話に触れ、「あーやっぱり、山田さん、一貫してる、ブレてないな」って嬉しくなったのであります。

 

 

本書にはたくさんの鬼籍に入った小説家たちも登場する。こういう人々の姿を語れる人も少なくなってきただけに、かなり貴重で興味深い話が多い。「へー、意外」って作家の姿が幾度となく登場する。破天荒と呼ばれた人、若い作家に励ましの言葉をもって育てた人、みなさんもうこの世にはいないけれども、山田さんの心の中ではずっと生き続けていることが解る。山田さんが尊敬して止まない宇野千代さんの話、クールです。

 

デビューから38年目。このような作品が読めるとは思ってなかっただけに、ちょっと戸惑いつつも、結果的には愉しんでしまったという。なにか当時の自分との「答え合わせ」をしているような気分にもなった。読み終わるころには完全に「帰りたくない!もっと話を聞きたい、騒ぎたい!」的なものが押し寄せ、ああ、これは同窓会の後みたいだなって(笑)

 

ということで、レビューとは程遠い内容になってしまったけど、ひとりの作家をリアルタイムで追い続けることの幸せを炸裂させてみました。本当は本書に書かれている素敵な言葉のひとつでも引用すれば良かったのかもしれないけど....。でもでも、そんなことより、ポンちゃんと共に歩んだ歴史(勝手に)の方が自分にとっては書くに値すると思ったのであります。

 

そうそう、数十年後にこの続きを読みたい。いや、絶対読みたい。ポンちゃん、目指せ!宇野千代さんだ!長生きして続編を必ず書いてくださいませ。

 

 

【つなぐ本】本は本をつれて来る

*ポンちゃんリスペクト作家

幾つになっても恋の花を咲かせ続けた宇野千代さんの作品。桜の話は壮大。こちらも宇野千代さんの作品同様、ずっと生き続ける。

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