凛:蛭田亜紗子著のレビューです。
☞読書ポイント
感想・あらすじ 人間はこんなにも変わってしまうものなのか?
ここ最近読んだ本の中で最も過酷な内容だったと思える作品。もう何というか、人は環境によってここまで変わってしまうものなのか、残酷になれるものなのかと、その変貌ぶりに震える。
時は大正時代。舞台は開拓真っただ中の北海道の網走界隈。物語は、網走の妓楼「宝春楼」へやって来た八重子と、トンネル工事現場に連れて来られた東京の帝大生、麟太郎がこの地にやって来たところから始まる。二人はすでに海を渡る青函船で出会っている。この出会いがその後、様々な形で絡み合う。
鱗太郎は文学を愛する青年だったわけだが、ひょんなことから何も分からないまま拉致され、「タコ部屋」での労働をすることになる。この「タコ部屋」は半監禁状態で、決められた期間を働くというものなのだが、これがもう、拘束、暴力が酷すぎて思わずページを飛ばしてしまいたくなるほど。病気だろうがなんだろうが、とにかく人としての扱いではなく、仕舞には怖ろしいことが目の前で起きる。
何も知らずに来た鱗太郎がその後どのような道を辿るのか。途中で逃げ出すかと思いきや、意外な方向へと変わっていく。彼の姿は注目だ。
一方、子を預けて遊郭へとやって来た八重子。こちらもまた遊郭での過酷な労働が待っている。年季明けまで頑張るのだが、その直前でまた....。八重子だけではなく、ここでも周りの女性たちの悲しい物語が存分に描かれている。
鱗太郎と八重子。青函船での出会いからしばらくして再会することになる。読み書きができない八重子が彼との出会いによりできるようになる。鱗太郎から彼女への本のプレゼントが、この小説で唯一ホッとできる瞬間であった。
しかしそんなシーンも一気にかき消すかのごとく、辛いシーンの連続でした。短期間を切り取った話ではあるけれども、どの人々の人生も壮絶すぎる。当然、亡くなった人々もたくさんいる。
タコ部屋について何の知識もなかったのですが、開拓期にはかなり行われていたようで、様々な作家が小説にしているようだ。追々、これらの関連本も読んでみたいと思った。
ちなみにタコ部屋とは➡ タコ部屋労働 - Wikipedia
蛭田亜紗子さんの作品を読むのは2冊目ですが、こういう骨太な作品も書くのだとちょっとびっくりしました。作風をガラリと変えることのできる作家さんの一人なのかなと思いました。
【つなぐ本】本は本をつれて来る
こちらも炭鉱やマタギの話とともに、ひとりの男の生涯が描かれる。過酷な労働、人間関係、恋愛、家族等々、濃厚な熱をもって描かれる大作。かなりおすすめです!