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【レビュー】硫黄谷心中:村田喜代子

 

 

【レビュー】硫黄谷心中:村田喜代子著のレビューです。

 

硫黄谷心中

硫黄谷心中

 

 

☞読書ポイント 

舞台は赤峯高原の硫黄谷。湯治客に紛れて心中する男女がやって来る宿。生死を彷徨う彼らの最後の一日はどんなものっだのか。死者とこの世の者がいつの間にか一体となる夢うつつな世界へ。

 

 

感想・あらすじ この宿は心中する者たちがあの世に旅立つ波止場だったのです

 

この世、あの世、生、死、夢。
村田さんの小説の世界は必ずこのテーマが含まれているように思う。時にやるせなく、時にユ―モラスにと、視点を変えながら毎度このテーマを描き切るという部分に物凄く惹かれるものがあり、すごい作家だなぁと感じます。何より読後に来るじゅわ~とした充足感が、次の読書意欲を促すものになります。

 

タイトルからしてすでに重い「硫黄谷心中」。舞台は赤峯高原の硫黄谷。
ここはかつて心中の地として、多くの人々がやって来ては火口に飛び込み、死んで行った場所だと言う。

 

人々は心中前夜に宿に泊まり、温泉に浸かり、翌日旅立っていく。あの世へ。

湯治客や登山客、そして心中組でかつては賑わっていた澤田屋旅館。そんな時代も過ぎ去り、現在はひっそりと営業を続けている。

 

そこにやって来た3組のお客さんと、経営者の父娘や従業員の会話から、この界隈のかつての様子が徐々に浮かび上がる。心中前の恋人たちの様子、心中の様子、死んだ者、助かった者など、当時の時間と現在を行ったり来たりしながら混沌とした世界へと誘われます。

 

 

 

一体この気持ちはどこから来るの?誰の感情なの?と、ごちゃまぜになるような後半。死者とこの世の者がいつの間にか一体となっている不思議な世界は夢うつつなものがある。

 

生きる者と死んだ者がごちゃっとなる瞬間、なんとなくお盆、盆踊りみたいな時間だなぁと感じる。ほんとはゾワっとする話のはずなのに怖くない。死者のと対話するような不思議な空間がきっとあるのだろうなぁと感じずにはいられません。

 

死者たちの話だけでなく、本筋はこの宿で働いている人々の人生、泊りに来ている3組の客たちの人生等々も興味深く描かれている。特に従業員の意外な過去にドキッとさせられる。

「昔の人間はみんなよう死んでいったもんやわ。きちんと宿代払うて逝った者やら、踏み倒して逝った者やら、荷物を残して逝った者やら、なんも残さず逝った者やら、みんな、ぞろぞろと、この澤田屋から崖を飛んで逝ってしもうたわ」

従業員のシゲさんが、天婦羅を揚げながらなにげなく語った言葉が胸にツンとくる。

 

 

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