夢を見る:性をめぐる三つの物語:石原燃著のレビューです。
☞読書ポイント
目を背けちゃいけない3つのテーマを脚本形式で読む
3つの短編は、どれも重たいテーマである。これらのテーマを、劇作家である石原さんならではの脚本形式でアプローチ。なので、ある意味とても新鮮で、ハードな内容であるにもかかわらずスルスルと読める。舞台を見ている感覚。こういう形式の本を読むのは、井上ひさし氏の作品以来だな~。
ということで、本書のテーマは以下の通り。
■夢を見る
かつて日本の将校専門の従軍慰安婦だった「ヘル」の話。
■蘇る魚たち
男性から性暴力の被害を受けた男性の話。異父、異母兄弟が問題に立ち向かう。
■彼女たちの断片
中絶薬を使用する女性とその周りの人々の話。
どの話も目をそらしてはならない。従軍慰安婦の話は、さきに読んだ深沢潮さんの「翡翠色の海にうたう」のラストで問いかけられた「私は何者なのか?」という叫び声と、本書の「ヘル」というかつての慰安婦の声が重なり合うような気がした。これはぜひ機会があったら合わせて読んでいただきたい。
そして今回一番心に響いて来たのは「彼女たちの断片」です。こちらは「中絶薬」を扱った作品。日本もそろそろ認証されるとのことですが...(もしかしたらもうされている?)。従来の人工中絶は、母体への負担が大きいし、費用の負担も大きい。この薬は比較的体の負担も少なく、費用面もかなり抑えられると言う。
本書では海外の支援団体から手に入れた中絶薬を飲む女性の一晩を描く。実際薬を飲むと、体にどんな負担がかかるか等も書かれている。他人事ではなく、男女問わず知っておくとよいと内容だと思います。
そして、なぜ彼女たちが中絶に至ったのか。ここでは様々な年齢の経験者が、過去の状況を含め語られていく。中絶の歴史を含め、彼女たちの話から見えて来るものは大きい。
一概には言えないが、中絶で心身ともに傷をおうのはいつでも女性たちなのだ。男性はこの痛みをいつまでも抱えることはあまりないのでは?と思う。しかし、女性はそうはいかない。身を持って経験するだけに、死ぬまでその痛みとともにその後の人生を歩む。
苦しい選択から薬を飲む日を迎えるわけだが、その日はどういう環境に居るのがベストなのだろう。ここではひとところに集まった女性たちが、当事者の身体に配慮しながら寄り添い、にぎやかに語り合う。これがねぇ、なんとも温かい空間なんですよ。まるで出産時と似たような守られた空間。そこにどれだけ救いがあるか。
中絶薬を飲む時って、すごく孤独で不安・罪悪感でいっぱいだろうと想像する。そんな時、頼りになる女性たちに囲まれ、安心が得られる整った環境で乗り越えることが、どんなに救いになるか。実際この先、中絶薬がどのように扱われるのかわかりませんが、心のケアも含め、慎重にことを進めなければならないと考えさせられました。
本書は女性はもちろん、男性にもぜひ一読をおすすめします。会話形式なのでスルスル読めますが、大事な部分はしっかりと伝わって来ます。
【つなぐ本】本は本をつれて来る
こちらは韓国から日本に連れて来られた慰安婦の話です。