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*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【レビュー】燕は戻ってこない:桐野夏生

 

 

燕は戻ってこない:桐野夏生著のレビューです。

 

 

☞読書ポイント 

貧困、不妊、代理母。この3つの問題が絡み合う小説。最初から最後まで、不安、心配が尽きず、得体の知れない緊張感が続いた。かなり分厚い本ですが、躊躇せずに手に取ってもらいたい。読み始めたらあっという間です。

 

「今の自分には、子宮込みの肉体を売るしか、できることがなかった。」

 

図書館で受け取った時、まず「厚い!」と思わず声が出そうになった。「そうだ、桐野さんの小説って厚いのが多いんだよなぁ」っと思い出し、返却日に間に合うよう、うちに戻り、早々に読み始めた。....と言う心配ごとも、たった2日で解消!(笑)とにかく、先が気になって、まるで腹ペコの者が、わしわしと食べているかの如く、文字を貪った感がある。要は最後まで全く中だるみすることなく突き進んだのです。

 

読み終わって感じるのは「貧困」と「代理母」が深くつながっていることの怖さや危うさ。高額報酬を短期間で得られるということで、ビジネスとしてそこに踏み込んでいく非正規雇用者。そしてもうひとつは、人間の尽きることのない「欲」。その「欲」を満たすために、人としてどこまで許容できるのか。そのあたりの線引きの難しさみたいなものを、何度も突き付けられた気がしました。

 

本作は「代理母」と「貧困」が絡み合う、とても複雑で難しいテーマを描いたものだ。

北海道で介護職に就いていた29歳、独身のリキ。彼女は東京に出てきて病院の事務の仕事をするも生活は苦しい。ある日、同僚から「いい副業」として、「卵子提供」を勧められる。興味本位で出かけていくと「代理母出産」を勧められてしまう。より高収入が得られるということで、今の生活と収入を天秤にかけたリキ。現状を打破するために、彼女はある夫婦の「代理母」になる決意をするのだが....。

 

 

 

依頼した夫婦の方の話もこれまたすごいものがあった。夫は自分の遺伝子を持った子供をどうしても見てみたくなったという元バレエダンサー。夫の母親も自分たちの資産はなにがなんでも血がつながった孫にという強い気持ちがあった。夫の母はお金は出すからということで、息子に「代理母」の話を促す。不妊の妻は「代理母」の件に承諾するも、その疎外感は半端じゃない。

 

一方、代理母になる決心をし、契約したものの不安と怖さのなかにいたリキ。依頼してきた夫の自分本位な言動に「生むだけ」扱いをされた気持ちになる。投げやりな気分になったリキは、ある過ちをおかしてしまう。これは契約違反になるのだが、このことが後々大問題になり、私達読者も一体この先どうなってしまうのだろうと、頭の中はそのことでいっぱいになってゆく。

 

途中からこの物語の着地点がどこなのか、本当に気になって気になって仕方がなかった。刻一刻とお腹のなかの子は大きくなり、そして生まれても尚、物語の人々の未来が見えないという展開ではあるけど、きっと落ち着くところに落ち着くものだと思っていた。しかし、しかし、やはり桐野さん。最後に来て思いもしないラストを用意していた。

 

桐野作品のラストは結構衝撃的なものが多い。時にそれが唐突すぎて読者が置いて行かれることもあるのだけど、今回はなんだか「おっ!そう来たか!」と、パッと目の前が開けた感じがしたのだ。主人公がこれまでどこかふわふわと流れるままに生きている感じがしていたのだけど、ラストに来てようやく彼女の強い気持ちが見え、清々しい気持ちになれたのが良かったなぁ。この展開は本当に思いつかなかっただけに、あっぱれでした。

 

にしても、やはり衝撃的な作品だった。「生む」ことについて、色々な角度から考えさせられた作品でもあった。生むことはどんな選択をしようと、肉体的にも精神的にも、女性たちに大変な負担がかかること。そして生まれて来る生命の大きさを改めて感じる内容であった。

 

【つなぐ本】本は本をつれて来る

*特別養子縁組が成立するまで

   こちらは、特別養子縁組が、どのような経緯を経て現在に至ったかが、

   よく解る一冊。ある男の強い意志により今がある。

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