姉の島:村田喜代子著のレビューです。
☞読書ポイント
170歳が「潜る」ぞ!!
ここのところ海が舞台の小説が続く村田作品。前作の「飛族」の姉妹本のような既視感を覚える「姉の島」。
高齢者の海女たち、海、島、戦争、そして、生と死。似たような設定ではあるのだけれども、今回は海の中に潜ります!
本書から伝わってくるもの、それは、
潜る、探る、感じる、そこから浮かび上がるあの世。死者たちの声。
世界の海の底にはたくさんの水中遺跡となった沈没船が300万隻は沈んでいるという。先日そんな話をラジオで聴いた。日本の海にもかなりの数の船が沈んでいるそうだ。本作に登場する退役海女たちが次世代のためにと、潜った海の「海図」作成に取り組むことにした。
地図を作成するにあたり潜水艦が眠る海に再び潜ることにした老婆二人。その力強さと、海の中の世界に魅了されつつ、どこでもないどこかを自分も漂っているような気分に。
これです、村田作品のトリップ感。飛んだり、夢を見たり、時にあの世に足を踏み入れたり。いつの間にかどこかへ連れていかれる心地よさ、浮遊感。今回のそれは深い海の中だったのです。
孫の嫁が三代目の海女としてこの先やっていくと決めているのだけど、現在は身籠っており出産の準備中。常に元気に動き回る孫の嫁と、どっしり構えるおばあちゃんとの会話も心地よい。
若者と老婆、海に眠る死者と胎内で眠る赤ちゃん。村田作品ではこうした対照的なものを互いに引き立てながらいつの間にか融合していくような上手さがある。これは他ではなかなか味わえないものだと常々思っています。
実は今回、老女たちの年齢は170歳とかすごいことになっているんです(笑)
あたしら、このたび百七十歳になったぞ。
本作の第一章のタイトルです。唐突にすごいことを語り掛けられギョッとしますが、これは倍暦と言って、春のお彼岸の入りの満潮の時刻に齢を貰うというものらしいのです。85歳からはこの倍暦を用いて年を数えるという習わしとのこと。こうした歴史を含め興味深い小話がちょこちょこと登場するのも本書の面白いところである。
ということで今回は深い海の中。ちょっとしたロマンすらも感じさせられるものがありつつ、やはりいつも通り、生と死のコントラストが際立っていた。なにかが放出されるような大きなカタルシスを感じながら島をあとにする。満足な一冊でした。