雪に生きる:猪谷六合雄著のレビューです。
(本が好き!の献本書評です)
人生謳歌!好奇心のかたまりがジャンプする!?
最初はただのスキーオタクの本なのかな~と、のんびりフムフムと読んでいた。でも先は長そう、550ページ以上もある。まさかいくらスキー好きだからと言って、ずっとスキーだけの話ってことはないよね?....なんて、ちょっと不安がよぎった。
ちょうど文章に慣れてきたあたりからか、なんだか楽しい。一番楽しんでいるのは猪谷氏とその奥様と子どもたちなんだけど、とにかく読んでいる自分も、猪谷氏の周りにいる人々も、みんながみんな楽しくなっていく。この本が復刊され、ずっと愛されているのは、恐らくこの部分が大きいからなのだろう。
弾むようなキラキラまぶしい日々を心地よく読んでいたけれど、やはり人生、悲しいことや躓きは避けては通れない。お子さんの死や、住んでいる家の火事など、残念な出来事も何度か訪れる。
お子さんの死については、心の傷が深すぎたのか、真相は解りませんが多くは語らず淡々とした著者の姿が印象的。また、火事についてもショックではあったでしょうが、すぐに気持ちを切り替え、再び山小屋を建てる。このあたりが凡人と違うなぁ~と。場所さえあれば住む家は自分で建ててしまう逞しさよ。ものすごい生命力を感じます。
とにかく彼らは「好奇心のかたまり」だ。スキーはもちろん、自分が興味を持ったものは、なんでも見てやろう!どこでも行ってみよう!なんでも作ってみよう!と動く。考えるよりじゃんじゃんやっていくというスタンスだから、どんどん目の前が開けていくのです。
だから常に何かに取り組んでいて忙しそうだし、みるみるうちに人も大勢集まってくる。それは彼らが過ごした赤城山、千島、乗鞍と、場所を移しても変わることはない。まさに「人生謳歌」という言葉がふさわしい。
私たちは多くの場合、わずかな時間の無駄も惜しんでよく働いた。それはスキーばかりではなく、大工をしても、編み物をしても、畑を作っても、ほとんどいつも全人格的な情熱を打ち込んで精進を続けてきたと思う。
「全人格的な情熱」―—どのページも作者のこれらの気持ちが漲っています。
他にもスキーでの怪我の話、鼠や蚊との戦い、ご近所さんやちょっと天然な奥様の話、山小屋にやって来るゲストの話等々、数えきれないほどのエピソードを連れて四季の移り変わりを綴ってゆく。
真っ白な雪と真っ青な空、そしてカラフルなニットを纏った人々が続々と斜面に現れて、ピョンピョンとジャンプしている。近くによると、みんなほっぺが高揚して赤くなっている。
この本を閉じると目の奥に鮮明に見えて来るのは楽しい風景。お会いしたこともない人たち、行ったこともない場所だけれども、わたしの中に刻まれたこれらの風景は永遠だ。
昭和18年の名著を新装復刊。表紙、カバーどちらも素朴で素敵です。