乳房のくにで:深沢潮著のレビューです。
☞読書ポイント
「母乳」からはじまる家族の悲劇
「母乳」の話から、こんなにも話が膨らんでいくとは想像できなかった本書。いやぁ、、ただでさえ女性は子を生んでも生まなくても色々言われることが多いのに、生んだら生んだで今度は帝王切開だから苦労を知らない云々言われたり、さらに今度は母乳で育てるか否か、母乳が出ないとなるとそれがまた問題になるという。
本書はこれらの諸問題が次々に降りかかってきて頭がくらくらした。中でも子育てのなかでも大きなテーマとなる「母乳」の問題が女性たちを苦しめる。前半はとにかく「母乳、母乳、母乳」。母乳にまつわる話がたっぷり綴られる。
主人公の福美は夫の失踪で、生まれたばかりの娘と途方に暮れているところ、ある女性に出会い、ナニィ(乳母)として彼女の立ち上げた会社で働くことになった。母乳を持て余すほど出ていた福美にとってこの仕事は願ったりかなったり。しばらくすると、同級生である政治家一家から、福美にナニィの指名が入る。かつて好きだった人とその妻。妻の奈江はかつて福美をいじめていたという過去がある。
現在二人は結婚して裕福な生活を営んでいるのだが、奈江はこの政治家一家の保守的な考えについていけず、しかも現在授乳中であるが、母乳が思うように出ずに悩んでいる。そこへ福美が派遣されてくるという展開へ。
スルスルと話が進みテンポよく読めてしまうのだが内容は重い。特にこの政治家一家の保守的な考えが何とも言えず嫌なものだ。例えば「帝王切開」で出産したことが、普通のお産より苦労してないとか、母乳で育てられないことに対して嫌味を言ったり。そして、子育て中は外で働くのはよくないだのと、ありとあらゆる昔の風習みたいなものを姑は押しつけがましく言ってくる。このあたりの重圧がいかに女性たちを苦しめることか。
結局、福美の母乳で育った奈江の息子は、実の母である奈江になかなか懐かず、福美に愛情を求める子になる。そのあたりの奈江のジレンマ。そしてこの状態を悪いと思いつつ、昔のいじめを忘れることが出来ず、ひそかに復讐の意識を持ってしまう福美。どちらも不幸である。
とにかく「母乳」からここまで話が広がるとは思ってもみなかった。時代も変わり、働く女性も増え、その上での結婚や出産。女性たちはいくつもの大変な選択を繰り返しながら懸命に生きている。それなのにこんな言われよう、なんだか本当に腑に落ちないと、半分イライラしながら読んでいました。
でもでも、この物語はちゃんと彼女たちに新しい未来を用意してくれている。そうじゃなきゃ救われないもの。猛スピードで読んじゃったものだから、必死な彼女たちについていくだけで息切れ。本当に疲れました(笑)