三度目の恋: 川上弘美著のレビューです。
夢のなかで別の人生を生きるってどんな気分なんだろう?
「三度目の恋」というタイトル。三度目にようやく訪れたハッピーエンド的な恋愛小説なんだろうと安易に想像しちゃってました。しかしこの小説、読み進めれば読み進めるほど奥が深く、ちょっとやそっとの「三度目」ではなく、思っていた以上なものがありました。
とにかく話の構造が凝ってる。どんどん階段を下りて行くような...まだ下るのか、まだまだ下るのか?ってな気分になるほど「おっ!」となる展開が待っている。
主人公の女性は、女にモテモテのナーちゃんという男性と結婚する。結婚してもナーちゃんからは女性の気配が決して消えることはない。彼女の生活は、やがて夢のなかで別の人生を生きることになる。一つは江戸時代で吉原の花魁として生きる女。もう一つは平安時代の女房として生きる女。こちらは伊勢物語をモチーフにした内容。
二つの時代、そこで出会う人々や起こる出来事、そして感情までもが、どれも今の自分(たち)にうっすらと繋がっていることを感じさせられる不思議な世界。
どちらの話もその時代の特長が素晴らしく描かれています。個人的に花魁の話も平安時代の話も大好きなジャンルなので、まさかこのタイトルからこのような展開になるとは夢にも思ってなかっただけに大興奮。先に吉原の話だったのですが、そのあとに平安の話も出て来たもんだから、「うわぁーまだあったのか!」と。まさに1冊で2度おいしいと言った感じでした。
今、昔、そのまた昔。どの時代も好きな男性を狂おしいほど想う女性たちの鼓動がドクドクと伝わってきます。
また「私」が小学校の時の用務員だった男性の存在は一体?ある意味、ナーちゃんより存在感がある彼。過去も現在も深い関わりがあったようで、二人の行方も大変気になるところだ。
時代を駆け巡り、現在に戻って来た時の「私」の景色はどう変わったのか?そのあたりも含め、ちょっと不思議な読後感を残す作品でした。そして、最後は何とも言えない切なさの中にポツリと取り残された自分がいた。物語の中の人々はとっくに前を向いて行ってしまったと言うのに....。
夢の続きが日々見られるってどうなのだろう。それを誰かと共有できるっていう世界もね、面白そうでもあり、怖い気も。村田喜代子さんの「屋根屋」をちょっと思い出したりもしました。
しかし、川上弘美さんってほんといろんな世界を見せてくれる作家だなぁ。早くも次作が気になってしょうがない。