檀:沢木耕太郎著のレビューです。
檀との結婚は幸せだったのか?妻の真相はとても深い
檀一雄。読んでみてまず感じたのは、昔の作家らしい作家だなぁと。家庭を顧みず、他所で女性を作り、たまにふらっと家に帰って来る。家計は貧しく、妻はひたすら耐え忍ぶ。
本書の前半はその典型ともいえる身勝手さにいささかイライラさせられものの、後半に登場する「檀から妻へ宛てた手紙」でその印象が一気に変わった。
本書は檀一雄の17回忌が過ぎたころに、著者である沢木氏が檀の妻・ヨソ子のもとを訪ね、夫婦生活について語ってもらい、それをまとめて本にしたものです。
妻の語ることを沢木氏が小説のように描く。夢中で読んでしまう一方、これは沢木さんが書いている小説だよね?と少々困惑。実話でありながら小説のようでもあり....。
書き手と語り手が違ってもノンフィクションなら割り切れるのですが、小説となるとちょっと戸惑います。何て言うか、ヨソ子さんが沢木さんに憑依して書かれているといった感じなのです。そのくらい沢木さん、上手いんだなぁ。
結婚、再婚、子供、愛人、作品等々、妻の立場から見た夫の姿と苦悩がたくさん登場する。身勝手な檀氏と別れずにいるヨソ子さん。夫婦のことは夫婦にしか解らない、何か良いところがあるから続けていけるのだろうが、その真意はどこにあるのか?
後半に行くほどこの夫婦の愛の形を知る読者。
「火宅の人」に書かれている出来事はヨソ子にとっては辛いことばかりであった。しかし、「檀と結婚したことで、他では味わえない不思議な人生を経験することができた」ヨソ子は言う。
そして、檀氏からの手紙。このふたつを知ることにより、つくづく夫婦の仲というものは複雑で深いものだなぁ.....と感じずにはいられませんでした。
読んでいるときはいっぱい思うことがあったのですが、読み終わってからすぐ感想を書かなかったせいか、すっかり細かなことを忘れてしまいました。
ということで、自分の中でこの夫婦のあれこれを削ぎ落し、最終的に印象に残った部分しか触れていませんが、濃厚な話であり、沢木氏の巧みな文章に惹き込まれるものがあったのは確かです。
「火宅の人」は若い時に一度読んだのですが、もう一度読もうと思いました。あの頃はサラッと読んでしまいましたが、今ならもう少し深く読めそうな気がしています。