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【レビュー】ホハレ峠 ダムに沈んだ徳山村百年の軌跡 :大西暢夫

 

 

 ホハレ峠 ダムに沈んだ徳山村百年の軌跡 :大西暢夫著のレビューです。

ホハレ峠;ダムに沈んだ徳山村 百年の軌跡

ホハレ峠;ダムに沈んだ徳山村 百年の軌跡

  • 作者:大西 暢夫
  • 発売日: 2020/04/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

Myノンフィクション部門、今年はこの一冊が一番!

 

期待の一冊だったのだけど、それを超えて来るほど奥行きの深い、とても考えさせられるものとなった「ホハレ峠」。

 

 日本最大のダムに沈んだ村、岐阜県徳山村の最奥の集落に、最後の一人になっても暮らし続けた女性(ばば)がいた。

 

わたしはてっきりダム建設にまつわる国対住民の闘いの話がメインなのかと思っていたが、それとはちょっと違う。そもそもの発端はそこにあるのだけれども、本書は一人の女性・廣瀬ゆきえさんの一生を丁寧に描いたものとも言える。そこには、奉公、集団就職、北海道開拓、戦争、高度経済成長等々、めくるめく日本の歴史とともに生き抜いて来た彼女の奥行深い人生が見られる。

 

ダムの底に沈んだ岐阜県揖斐郡徳山村。ここで穏やかな村生活をしている老夫婦と著者の交流からはじまる話は、長い長い時間を遡っていく。

 

やがてご主人が亡くなり、ゆきえさんはダム建設のために、立ち退きを余儀なくされてしまう。

 

こういった立ち退きの話はダム建設に限ったことではないけれど、最後までそこに居続ける人の気持ちの奥底にはどんな事情があるのだろうか?上手く言えないけれども、今まで自分が考えていたものが、いかに浅はかのものであったか痛感する。

 

結局、国から与えられた目先の恩恵は、将来の何かになるものではない。いっときのことで、その場つなぎの財産を与えられたにすぎない。壊すことは簡単なことだ。しかし長く積み上げて来た年月は途方もないもので、一度渡したら元に戻すことはできない。その重みは他人には到底分からない。ましてや国が出て行って欲しいという説得の中には、愛情のかけらすらないわけで、その気持ちを少しでも知ってもらいたいがために、ゆきえさんは村に残っていたのではないか。ダムを中止にするべきかという議論ではなく、人間が生きていく根源を見せようとしていたと思うのだ。(240頁~)

 

 村で生まれ育った女性の歴史を辿って行くと、一部の一族がなぜこの村に留まっていたのか?などが明らかになって来る。そこにはその人たちなりの深い事情があり、筆者が言うように、長く積み上げてきた年月がある。そういったものを一気に奪われてしまったゆきえさんの気持ちは、どこにぶつけたらいいのだろう。

 

  

 

本書はそれだけではなく、タイトルのホハレ峠がどういったところであったか。また北海道開拓地の当時の様子、暮らしぶりなどが、著者の丁寧である意味執念深い取材のおかげで、次々と明かされていく。人との繋がりを辿り、謎が解明されていくというワクワク感もたくさんありました。

 

もう読みながら、いろんなことを考えさせられたわけだけど、書評にするには自分には言葉が追いつきません。是非是非、ご自身で読んで、この小さな村とゆきえさんのありし日の姿を知って欲しいと願います。

 

とにかく、本当に読みごたえがありました。

大西さんの本は「ここで土になる」も素晴らしいです。

 

最後にこの言葉を胸に刻みます。ゆきえさんの無念さがどこまでも残ります。

現金化したら、何もかもおしまいやな