グランドシャトー:高殿円著のレビューです。
楽しいことはみぃんな大阪から始まるんやで!!
キャバレーという場所、若い人はもう知らないかな。わたしも行ったことはないけれど、イメージとしてキンキンキラキラ照明と舞台とお酒。大人の男性が通う昭和の夜の娯楽のひとつ....という認識がある。なんていうか、ちょっと宝塚的なものも。
今、この言葉を聞くと何とも言えない「哀愁」を感じる。そういえば「キャバレー」って渋い映画もあったなぁ。
「グランドシャトー」はそんな昭和の時代を駆け抜けたキャバレーのお話。昭和38年から平成へ、その30年間の物語です。
経済が上向きになって行く世の中で、がむしゃらに上へ上へとガッツでのし上るルー。グランドシャドーで常にナンバーワンの位置にいるどこか浮世離れした雰囲気の真珠。本書はこの二人の女性の温かい関係と人間ドラマ、そして高度経済成長期、バブルなどの当時の日本の様子、全てがバランスよく描かれていて、いや、本当面白かったです。
この話で終始謎めいていたのが、真珠の存在。
家庭の事情で家出してきたルーと偶然出会い、その後、下町の長屋で一緒に生活するようになる。ルーと真珠はグランドシャドーで働いているのだけれども、真珠には秘密が多く、どんなに親しくなってもその部分に触れられないという気持ちがルーにはあった。
ふたりはキャバレーで高給取りであったにもかかわらず、実生活な質素で慎ましやかに暮らしていた。このあたりのギャップもこの物語のうまさだなぁーと感じます。
特にナンバーワンである真珠が何故、このような生活を好んでいるのか?年を取ってもずっと変わらずグランドシャトーで働き続けるわけは?そして、ナンバーワンで居続けるそのわけは?
やがて、ルーは東京進出してしまうのだが、久しぶりに大阪に立ち寄ったルーは、ある事実を知り、再び大阪に戻り、真珠との生活を再開させる。
もう何というかね、後半の真珠の話は、なんとも哀しい話なのだなぁ。ルーも真珠も、生涯家族に恵まれなかったけれど、時に親子のようなこのふたりの、ふたりだけの静かで穏やかな生活ぶりが、今となっては救いでもあり、深く心に刻まれるシーンとして残っています。
活気があって、賑やかなシーンが多い反面、哀愁を帯びた小説でした。お地蔵さん、黒いドレス、真珠のネックレス、そしてグランドシャドー。どれも本当に切ない。
いろいろな小説を読んで来たけど、今回の真珠というホステスはかなり印象深い人物のひとりとなった。
大阪は土地勘がないので分からないのですが、京橋にはグランシャトーというこの話を思わされる場所が本当に存在するのですねぇ。ルーと真珠が出会った橋はあるのかな?そこからそのグランシャトーをいつか眺めてみたいものだ。