遊郭 (とんぼの本) 渡辺豪著のレビューです。
まさに写真は語る
「遊郭」と言えば、どんなところを想像しますか?
わたしは「遊郭」と言えば、まずは吉原、花魁が頭に浮かびます。もうちょっと近い昔だと、永井荷風や吉行淳之介が遊んでいた下町の遊郭の風景も。こちらは、もう少し地味な感じかな。いずれにしても、いわゆる「夜の町」を想像させられる遊郭。
というイメージでこの本に入って行くと、ちょっと拍子抜けするするほどのギャップに戸惑います。
建物全体、外見、内側、細部、またはちょっと遠くから写したもの。写真は遊郭の様々な角度から写されています。途中にほんの少し細部に関する解説や遊郭小史のページが入りますが、それ以外は写真のみのページが続きます。
静か、とても静かに遊郭の内部と向き合う。そして、全盛期の遊郭の様子を想像し、何とも言えない不思議な感覚でページを捲りました。
先にも言いましたが、自分の想像していた遊郭からかなりかけ離れたものだった。どちらかと言えば、廃墟の建物を集めたみたいな雰囲気で、中には目を覆いたくなるほどの劣化で傾いてしまっているものまであった。その建物と全く関りがない私ではあるけれど、なんだか泣きたくなってしまう感情が押し寄せる。
しかし、どんなに朽ち果てても、遊郭であったという威厳が感じられる。例えば窓枠の形状や、渡す寄木・銘木の種類や加工などが多種多様で、やはり一般住宅とはひと味違った細工が方々に施されている。タイルやステンドグラスの美しこと!
「私は遊郭が好きです。だから撮影しています」
という拙い自己紹介で、およそ10年、遊郭を含む500箇所、内外の娼街を訪れたという著者。
娼家は豪華なものだけに価値が存在するのではないと私たちは薄々気がついているはずです。収録した写真を通して、そのことが伝わったとしたら、私の小さな役目は全うできたことになるでしょう。
伝わっています。「おくがき」に残された文章の一部ですが、この部分に大きく頷いてしまいました。
まさに「写真は語る」と言った雰囲気の本でもあります。解説ページを分けたことによって、ひたすら「遊郭」を「見る」ことに集中できたのが、なによりも良かったなぁと思います。当時の色々な「音や会話」までも聞こえて来そうな異空間に迷い込んだ時間。かなり集中してたんだなぁと、読み終えた時に感じました。
人は一人として映っていません。だからなおさら、この寂れた景色が身に染みる。
これらの建物も、次々消えていくことだろう。貴重な資料として、こうして残してくださった筆者に感謝です。