白蟻女:赤松利市著のレビューです。
「鯖」とは真逆な作品。その意外性が一番の驚き
赤松作品の初読み「鯖」とは、がらりと雰囲気の違う本書。別の作家さんの本かと思ったほど、なんというか透明感のある作品。なにせ「鯖」はどす黒い社会でしたからねぇ。そんなわけで、その落差は激しかったけれども、読み終わってみると、これがまたジワジワと来る作品でした。
夫を亡くした恵子。そのお通夜に、なんと夫の愛人であったホステスの若い女性の幽霊が現れるという奇妙な話がから出発する。
彼女はかつて夫婦の家にやって来て、目の前で白蟻の駆除剤を服毒し、亡くなったといういきさつがある。そんな彼女が亡くなった夫を迎えに来て、妻に「思い出をめちゃくちゃにしてやる」と言い放つ。
「うわぁ」と、一瞬怖い話の入り口かと思ったのだけど、物語は苦楽を共にした夫婦のこれまでを振り返っていくというものであった。が、夫の不倫相手の幽霊とともに....という部分が変わっている。
はじめはこの幽霊がどんな悪さをしてくるのかとハラハラしたけれども、二人は対立するというよりも、徐々に互いの気持ちを分ちあうような雰囲気になってゆく。
思い出の中には夫の不倫を再確認しなければならない辛い場面もあったりもするんだけど、妻が見せる農家の嫁としての行動はとても強い「芯」を感じさせられものがあった。
通常、三角関係を描いた作品となると、互いを責め合い、負のエネルギー炸裂し、殺伐としたものになっていくけれども、本書はラストに向かうほど、何かが溶けて行き、最終的には温かいものが生まれてくるような話であった。そしてラストは、夢から覚めたような爽快な空気が流れている。
本作はわたしが期待していた赤松作品とは大きく違ったけれども、赤松さんってこんな作風も行けるんだね!っていう発見もできました。赤松作品を追っている方は、この作品も見逃さずに!うん、なんか装丁画からしていつもとちょっと違いますよね!?