ユウキ:伊藤遊著のレビューです。
感想:転校生はみんなユウキ。って一体どういうこと?
新学期、転校生。あの時のちょっとした教室内の興奮状態は、今でもうっすら思い出せる。わたしは転校したことがないので、転校生が初登校するときの緊張感や不安は味わったことがないけれど、今考えると、環境が一気に変わる状況への不安、小さな子供たちにとって、結構なストレスであることは想像がつく。
本書は「転校生」を中心に、多感な時期の少年・少女たちの日常を描いた作品です。
札幌の郊外は「転勤都市」と言われ、サッカー少年・ケイタの通う学校も転校生の出入りが激しい。それゆえ、せっかく仲良くなっても、短期間で去ってしまった友達も多く、ケイタ自身も随分悲しい思いをして来た。
面白いのは、ケイタが知り合う転校生は、みんな名前が「ユウキ」だということ。漢字は違うけど、不思議なことに仲良くなった転校生はみんなユウキなのだ。
祐基とはカードゲームを一緒に熱中した。悠樹にはミニ四駆の世界を教わった。勇毅はかけがえのないサッカーの仲間になった。でも、でも、みんな転校してしまった。
今回の転校生は優希。なんと髪の長い女の子。彼女と関わることによって、ケイタは転校生の複雑な気持ちや境遇を知ることになる。
転校を繰り返すたびに仲良くなった友達を失い、振り出しに戻らなければならない転校生。「小さいころからの友達がいる」という当たり前のことがない転校生の気持ちが切ない。
しかし、本書は転校生ばかりが辛い思いをしているわけではないことも分かる。変わらぬ場所に、仲の良い友達が居なくなってしまった寂しさ、これも経験しないとわからない切ない気持ちなんですよね。
転校によって起こる子供たちの複雑な心理を丁寧に描いた作品です。児童書ですが、大人が読むと、遠い昔の教室風景の扉を開いたような気分にさせられるものがあります。あの時、転校してしまった〇〇ちゃん、〇〇くん。元気かな~。