木になった亜沙: 今村夏子著のレビューです。
変化のスライド具合がすごい。この発想はどこからくるのだろう?
なんと表現したらよいのだろう?
・・・という問題は、今村さんの作品を読んだ後いつも思うこと。でも、今回はそれプラスなんだかとっても息苦しさを感じるほど、全体的に苦しかったなあ。
帯に書かれている言葉「食べて、お願い。私の手から」
ちょっとホラーっぽい?一体なんのことやら?と思うだろう。これは表題作「木になった亜沙」の主人公・亜沙の心からの願いなのです。切実です。
注意:【ここから少しのネタバレあります。】
この亜沙、小さい頃から、なぜか自分が差し出した食べものを誰も受け取ってくれない、食べてくれないということに悩んでいる。人間はもちろん動物までもだ。この状態をどうにかしたいという強い思いがそうさせたのか?気づくと亜沙は「杉の木」になっていた。
こうして説明するとあっさりした物語になってしまうのだけれども、この変化、木へとスライドしていく工程の不思議な感じは、読まないと絶対に味わえないものがある。「おっぉおおおおい!木になっちゃってるよ、なんでーー」という瞬間は忘れられない。
話はここで終わらない。木になった亜沙は、やがて「わりばし」になり、一人の青年と出会う。この青年もちょっと訳あり。果たして亜沙の願いは叶うのか?
本作は3つの短編が入っているのですが、「的になった七未」は、とにかく「当たりたい」のです。ドッジボール、いつも最後のひとりになってしまうなんて人、結構いますよね。最終話の「ある夜の想い出」は、昔の不思議な体験を主人公が振り返るという話なのですが、3つの中で唯一、気持ち的にはホッとしたと言うか、現実の世界に戻れるような気がした。
とにかく些細な話から、すぅーっと話が反転し、気づくと「あれ?......あれ?」状態。毎度毎度、うっかりしてると、あっという間に置いて行かれてしまう展開ですが、今回は登場人物たちの苦悩が結構痛かった。
短編としてのボリュームは丁度良い。これ以上長くなると、本当にどこかへ連れて行かれそうでコワイのでね(笑)