おらおらでひとりいぐも:若竹千佐子著のレビューです。
人はいくつになっても新しい感情に出会える
芥川賞受賞後にすぐにでも読みたかったのですが、すっかり時期を逃し、そのまま忘れてしまっていましたが、急に思い出し借りて来ました。
最初から最後まで「桃子さん」の裡なる世界に、ぴったり寄り沿っての読書。どこかで一息入れても良かったものの、桃子さんの一字一句は、不思議な吸引力がある。また、テンポや東北弁というちょっと素朴に聞こえる言葉の音が読み込むほど癖になる。
一番印象に残ったのは、人はいくつになっても新しい感情に出会えるものなのだなぁということ。それは経験の積み重ねによって作られていくような新たな形のようなもので、まだまだ自分には出会ったことのない感情であった。
また、耳も目も、本当は若い頃よりずっと悪くなっているはずなのに、逆に研ぎ澄まされていく部分も多々あるように感じられるのはなんだろうな。桃子さんの日常には、そんなハッとさせられるような場面があった。
74歳、夫には先立たれ、子供たちとも同居せず、独り気ままに暮らす桃子さん。桃子さんの昔を振り返りながら、今と昔を行ったり来たり。
今のなにものにも縛られない自由な生活は、きっちり生きて来た過去があったからこその賜物なのかもしれない。
老いは避けられないけれども、老いを上手く受け止めながら生きる桃子さんの姿が潔く心地よい。
なにをどう語ればよいのか整理しきれないままレビューを書きましたが、とても力強い作品を読んだ気持ちになりました。読む年齢によっても感じ方が変わるタイプの作品だとも思います。桃子さんと同じくらいの歳になってからまた読んでみたら、いろんな意味で楽しいかも?なんて思った一冊でもあります。