夏美のホタル: 森沢明夫著のレビューです。
一生こころに残る夏、そして縁
森沢さんの作品は本当久しぶり。森沢作品はほっこりした気分にさせてもらえるので、今の殺伐とした時期には丁度良さそう~と、読みはじめました。予想は当たり、とても人の温かみを感じられたひと夏を体験した気分になれました。
写真家志望の大学生・慎吾とその彼女、夏美。ふたりは山里へ出かけ、たまたま通りかかった「たけ屋」という古びたよろず屋に立ち寄った。たけ屋はおばあさんと、その息子が一緒に住んでいる。二人に温かなおもてなしを受けた慎吾と夏美は、たけ屋の離れでこの夏を過ごすことにした。古い離れを掃除して、田舎暮らしがスタートする。
温かい関係を気づきながら、山里の自然が存分に味わえる描写がなんとも心地よい。特にホタルが飛び交う川の風景が印象的。この川で魚を釣ったり、近くの温泉に行ったり、店番をしたり。
そして、ヤスばあちゃんと、息子の地蔵さんとのほのぼのした会話、近隣のちょっと変わり者など、それぞれの過去が少しずつ明かされつつ物語は進む。それは、切ない過去の出来事だったりするのですけどね。
短い間でも濃い縁ってあるんだなって思った。慎吾と夏美はヤスばあちゃんと地蔵さんに出会ったこの夏を一生胸に刻んで生きていくことだろう。
余談ですがCBX400Fというバイクが登場したりするあたりが懐かしくもあり、久しぶりにバイクっていいなって思わされる小説でした。あと、なんとなく村山由佳さんの「おいコー」というシリーズものの小説的な雰囲気もあったなぁ。この若い二人からにじみ出るものが似ているなぁと感じました。
そうそう、小説の舞台となった「たけ屋」にはモデルの店が本当にあるそうです。バイク少年だった森沢さんがこのモデルとなった店に立ち寄った....なんて実話があとがきにありました。森沢さんもバイク乗りだったのですね~。バイクの気持ち良い描写は実体験ありきなんですね。納得です。