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【レビュー】母の遺産:水村美苗

 

母の遺産:水村美苗著のレビューです。

母の遺産―新聞小説

母の遺産―新聞小説

 

 

こんな状況になったら、貴女はどうする?と終始問われている気分にもなった1冊だった。

 

 

内容を書評にするのは大変な労力が要りそうだ。
そのくらい、本書は「重み」のある1冊でありました。

 

大きな流れは、祖母、母、娘たち3代にわたる女性たちの人生が描かれた話ではあるのですが、前半は「母を看取る」ことが中心であり、後半は人生の折り返し地点に立った50代の娘が旅先で自己を内省をしながら「人生の棚卸し」の作業に入ります。

 

前半も後半もとにかく読んでいて本当にしんどい。しんどいとしか言いようがないほど。特に前半、親を「看取る」過程が大変リアルなのです。

 

「経鼻(ケイビ)」「胃瘻(イロウ)」 

老親の面倒を見るとは、それまで聞いたことのないような言葉、できれば、一生聞かずに過ごせたほうが幸せな言葉を学ぶことであった。

 

私もこの本を読むまでこれらの言葉をよく知りませんでした。確かにそうです。ある状況にならなければ決して知ることがない言葉が世の中にはあり、知らない方が幸せなんだということが山ほどある。

 

悲しいかな、大人になると、こういう知らない方が幸せなことがどんどん蓄積されていくのだなぁ…。そして、いつの間にか慣れ、動じなくなる。お葬式などがいい例です。

 

若いのにお葬式の作法などを上手にこなしているという状況を目にしたら、素晴らしいと思うより、若いのにどうしてこんなにも慣れてしまったのだろう?と不憫に感じてしまうだろう。だから、ちょっと不慣れでいるほうが人としては幸せなんですよね。

 

 

 

親の介護、看取るとことも、知らないでいたいこと、避けて通りたいことです。しかし、誰かの子供である以上、逃げずに直視して受け止めなければならない課題です。

 

本書ではプライドが高く、華やかで自由気ままに生きて来た母に対する娘の目はとても激しいもので、赤裸々に綴られる言葉のひとつひとつに息苦しさを覚えます。

 

それは残酷であり、冷淡にも聞こえる表現が多いのですが、決して否定する気持ちが
起こらなかったのは、こういう感情に共感できてしまう部分が多少なりとも自分にも
あるからだと思うのです。

 

尊厳死を望む母親。来るときが来たら潔くといった最期の形であり、本人の希望ということで割り切れる部分を持ちつつも、様々な問題を抱え込み、娘たちは右往左往するのです。なかなか母親から精神ともに解放されない娘たちの苛立ちが重苦しくなっていきます。

 

老いて重荷になった時、その母親の死を願わずにいられる娘は幸福である

 

ラストの方で出て来る言葉なのですが、様々な経緯を見て来ると「まさにそういうものなのかもしれない」と大きく頷ける。

 

…と、前半だけの感想に留めておきます。
後半は祖母や母の過去を読売新聞の連載小説であった「金色夜叉」に重ね合わせながら
顧みます。

 

そして、夫の浮気、離婚、遺産の使い道など、これまたとても現実的な話。主人公が次のステージへ上手に立つことができるのかを、今度は読者が主人公を見送るという読後感です。

 

親の老いをふと見てしまったなんともいえない気持ちは、自分の老いを感じるよりもむしろ辛く、なんとも言えない気持ちになります。また、人生半ばに起こり得る「中年クライシス」。

 

そんな親の老いを感じたり、自分のライフサイクルでの転機を感じたら、是非一度手に取ってもらいたいと思う1冊です。

 

まぁ、ちょっと重い話ではありますが、1年に1度くらいはこういう本に触れておくのも
良いと思います。現実は思った以上に厳しいこと、そして、いざという時の覚悟。様々なことを複雑に感じ、学べるんじゃないかと思います。

 

でもって「金色夜叉」…何度もあらすじに興味を持つくせに、読み始めるとあっと言う間に挫折するという、私にとって相性の悪さ抜群という本。またこんなところで出会ってしまい対応に困る今日この頃…。