とめどなく囁く:桐野夏生著のレビューです。
忽然と消えた夫。生きているのか?いないのか?ずーっと引っ張られた!
2段組み445頁ものです。本を開けた瞬間「おぉ!貸出期間内に読み切れるか?」と不安に思ったのも束の間、スルスルとページが進む心地よさを感じながら小説の世界へ。ページは進むけど話の進展はグズグズとした感じで、「もうはよ教えてーー」と叫びたくなったわけですが・・・。
ある日忽然と家族や恋人が消えてしまったら・・・。
本書では、釣りに出かけた夫がある日海で突然消えてしまい、帰らぬ人となってしまったという。法律では何年も行方が分からない場合、死亡認定が出来るそうだが、だからと言って残された者が気持ちを切り替えられるかと言ったらそうはいかない。「もしかしたら、ひょっこり戻って来るかも知れない」という、小さな希望を決して捨てることはない。
妻である早樹も7年後に夫の死亡認定を受ける。そして資産家で30歳以上も年上の男性と再婚し、豊かで穏やかな生活を取り戻す。
隠居した夫と海の見える広大な土地での優雅な生活。しかしながら、どこか乾いた雰囲気が漂う。そして、元夫の姑が行方不明の元夫を目撃したということから、新たな展開を見せ始めます。
再婚同士の夫婦であるため、現夫には早樹と同じ歳の娘がいる。その義理の娘が曲者で、SNSで早樹や父のことを中傷し、やがて問題を引き起こす。
話は居なくなった夫を追跡する一方、元姑、現夫の家族との歪んだ関係が並行して進んでいく形になる。
段々分かって来る元夫の過去、目撃情報の数々から、生きているのか、それとも死んでしまったのかがどんどん曖昧になってゆく。
元来、居なくなった夫が生きていたというこは、喜ばしいはずだが、何年も宙ぶらりんな状態だった早樹にとって、果たして消えた夫が再び現れることは幸せなことなのだろうか。そのあたりの微妙な心の揺れや変化を丁寧に描く話ではあったと思う。
「居るの?居ないの?」と、ずーっと気になって気になって。不穏な空気を、これだけのページを使って読者を引っ張って行く桐野さんはやはり凄い。けど、これだけ引っ張ったわりに、ラストは意外にもあっさりしたもので、大作を読んだ時の感動や充足感は得られず。自分的には庭の手入れで出入りしていた長谷川氏に何かあると睨んでいたのだけど・・・。
ミステリーというほどでもないけれど、ミステリー風味の人間ドラマに、結局は翻弄されたわけですね。桐野さんがセレブ系を描くのは珍しいかも?と思った作品でもありました。