人間:又吉直樹著のレビューです。
読みながら、又吉さんが顔を出す
又吉さんが小説家として描きたい世界とか小説の色みたいなもの、それがこの作品であり、これからもこういった作品が又吉さんのベースになるものなのではないかな?と、感じながら読んでいました。
これまでの「火花」「劇場」。どの主人公も似ていて、どこか共通点がある。そして、それはいつしか、又吉さんの姿となり、又吉さんと主人公を重ね合わせながら読むということもいつものこと。
わたしは又吉さんのエッセイの大ファン。小説はどうだろう。決して自分と相性がいいとは言えない。むしろ苦手なのかもなぁーと思ったり。もしかしたら、本当の旨味を味わえていないのか、内容を理解するところまで漕ぎつけていないような気すらしてきました。
なんというか、苦悩とか僻みとか、ちょっとひねくれた部分とか、何度も何度も捏ねくりまわす感じが苦手なのかも。それでも読んでしまうのは、ひたすらそんな人間たちの姿をよくもまぁ淡々とこんなにも長編小説として綴れるものだなぁと、本当に感心させられちゃうからなのです。長編ということだけではなく、素人目でみても又吉さんの文章や語彙力のレベルもどんどん上がって行ってるなぁということも判ります。
芸人をやりながら書き続けていること、本当に尊敬します。と、単純に私は思ってしまうのですが、又吉さんは読者のこのような評価、特に褒められることを、実のところどう思っているのでしょう。
ちょっと長めの引用ですが、本書を読むと又吉さんの気持ちが見え隠れしています。
うん、どこかでみんな芸人が小説を書いたということに驚きすぎてるよな。新鮮におもってくれるのは自分としては得やけど、仮にもコントを十年以上作り続けてきたわけで、いままで何千人という架空の人物を自由に動かして、喋らせてきたんやから、どの職種の人より物語との距離が近いわけやん。もちろん、小説とコントは全然違うから、新人には違いないけど、限りなくドーピングに近い経歴やとおもう。学生さんとか、創作に携わってなかった職種の人が突然物語を生み出したことの方が日常からの跳躍は大きいねんから、そちらこそを称賛するべきで、自分ばかりが言うてもらって、申し訳ない気持ちはある。でも、作家然とした人達も生まれたときから作家やったわけじゃなくて、途中でそうなったわけやから、異業種に過剰に反応する人は傲慢かもな。芸人やと驚かれるのは、いい意味で芸人が舐められてるからやろな」
小説内の会話の一部なのですが、どうですか、これ。又吉さんが作家になって日々感じていることなんじゃないのかなと思うのです。こんな風にちょこちょこと、小説の中にいる「人間」が又吉さんの感情や気持ちを吐露している気がしてならないのですよね。そこに面白さがあると言うか。
言っていることはなるほど~って思う反面、ちょっと小難しいというか、まわりくどいう感じがね。そこを受け入れられるかどうかなのかな~又吉文学は。ちなみにこういう会話文はどうしても又吉さんの声が浮かんで、その声で読んでしまうという憑依文学(笑)
ということで、小説としては、起伏がほとんどありません。紹介にもあるように、「青春」と「挫折」、そして「その後」の物語です。同じ場所からスタートした若者たち。ライバルに向ける複雑な感情の行方等々を描きながら、ラストは沖縄へと向かう。この沖縄も又吉さんのご家族の故郷だからなのかなーと。
なかなか掴みどころのない小説ではあるのだけれども、途中で止めたくなることもなく、なんとなーく、読み終わった感じです。しかし、やはり、この小説を理解できたかと聞かれたら「うむ。。。。」なのであります。
さて、次回はどんな作品か? そろそろちょっとだけ枝葉を広げても良いのではないかな。思い切って子供が主人公のものとかね。
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