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【レビュー】海と毒薬:遠藤周作

 

海と毒薬:遠藤周作著のレビューです。

海と毒薬 (新潮文庫)

海と毒薬 (新潮文庫)

 

 

衝撃的内容は覚悟していたが、何といっても陰鬱な描写が絶品!

 

 

遠藤周作の作品はもしかしたら何十年も前に読んだ「深い河」以来かな。この本に出会えた喜びと興奮は今もずっと心の中にあると言っても過言ではないほど素晴らしい作品であった。「海と毒薬」も、とても有名な作品。にも関わらず、手に取るまで随分と時間がかかったように思える。

 

 

━━━━太平洋戦争中に、捕虜となった米兵が臨床実験の被験者として使用された事件(九州大学生体解剖事件)を題材とした小説。

 

とのことで、重たそうな内容に少々躊躇。しかし、不思議なもので何故だかふと気になり、他の本をすっ飛ばしてでも読みたくなった。なんだろう、この唐突に動かされる感は・・・・。

 

 

とにかく数ページ読んで思ったのは、自分が見たこともない風景なのに鮮明に感じられる描写に脱帽。ほんの少し読んだだけで、たちまち当時の時間に惹き込まれていく。

 

 

そんな時代背景を纏いながら、主人公の男の持病からはじまる話は、誰しもがもしかしたら「人殺し」という暗い過去を背負っているのかもしれない、隣の人も普通に暮らしているけれども実は・・・そんな匂わせにますます翳りが差し込む。

 

 

 

戦争がすぐそこにあった時代。何かを隠して生きている人々が当時はたくさんいたに違いない。主人公が引っ越して来た町のガソリンスタンドの主人、そして、町医者の勝呂もまた大きな闇を抱えている。

 

小説は主人公の通う町医者の過去に焦点を当てる。

 

当時、大学病院の研究生であった勝呂。教授たちは出世のために、患者たちを実験台にするという日常。そんな中、捕虜となった米兵の臨床実験が密かに行われることになった。勝呂はその実験に立ち会うよう促され承諾してしまう。実際、彼はそこに居て見ていただけで、何かをしたわけではない。しかし、この出来事がその後の彼の人生に大きな影を落としていったことは小説冒頭の姿から想像が付く。

 

 

人体実験はこれからより多くの人を救うため、医学の発展のためという大義名分があったわけだが、やはり罪を感じずにはいられなかっただろう。勝呂の持つ罪の意識、同じく実験に立ち会った戸田の罪の意識。この二人の対照的な意識の違いにも色々と考えさせられるものがある。

 

戦争で誰もが死んでいく世の中であったから起きた異状な出来事だったのか?それとも、命は出世のための道具に過ぎなかったのか…等々、ぐちゃぐちゃした気持ちが残る。はたして実験がその後の医学の発展に役立っていったのでしょうか?病院から運び出され、犠牲になった人々の形ない魂が、今もどこかで彷徨っているような気がしてなりません。

 

最後に細々と町医者をしている寡黙な勝呂の姿が思い起こされる。
彼の背負い込んだものの重さがこちらにものしかかって来るような感覚がありました。その重さはなんだろう?「罪」「罰」「戦争」「命」この言葉がぐるぐると頭の中に々浮かんでは消えていくのでした。