あかるい箱:江國香織著のレビューです。
「待つ」ことはそこからの時間を止めてしまうこと
何かを待つことが好きな人、嫌いな人。
いつも待ってばかりの人、いつも待たせるばかりの人。
「待つ」という言葉の裏側には
人間の様々な心理が隠されている言葉だと思うのです。
引っ越したマンションはちょっと不思議なマンション。
このマンション、人の気配は感じるけど人の姿を見かけないという…。
ご近所の家は鍵や窓があいていたり、テレビが付いていたり、コーヒーカップから湯気が出ていたリするのにどの家も留守なんです。もう一週間も経つのに誰とも顔を合わせません。
でも少女の「私」には、となりの部屋のリリコさんが見えます。
このリリコさんが登場するあたりから、途端に世界が変わっていきます。
9月なのに部屋には雪が降り…風が吹き…。
「この部屋の中、思いが充満してしまって…」
リリコさんが待っているのは、もうずうっと前に出て行った恋人。
そして、私が待っているのは一通の島本君の手紙。
何かを待つことによって、閉ざされてしまう時間。それはほんのり甘美な時間でもあり、切なくもあり、また、あるかないか判らない空間を作り出していく。
ここに住んでいる人々はみんな何かを待っている。
私はそんな人々と、何日も何日も一緒に過ごす。
そしてある日、私は島本君からの手紙を受け取るが…。
ずっと、あの不思議な心地良い空間を漂っていたいと思うと同時に、いつか抜けださなきゃいけないと焦りを感じずにはいられなくなる。
とってもファンタジーなテイストの話なんだけど、小さな恐怖心が常にまとわりつくような…だから、最後は少しホッとした。
「待つ」ことはそこからの時間を止めてしまうこと。
そして時間に閉じ込められてしまうという怖さを、この物語は静かに語っている。