永い言い訳:西川美和著のレビューです。
読み終わってはじめてタイトルの「永い言い訳」という言葉がストンって音を立てて落ちていく
読みたいと思いつついつも予約が入っていた本書。先日たまたま図書館の棚にあったのでラッキーと借りて来たけど、なんと2015年の本だったのですね。そりゃ、もう予約待ちもないわけだ。
と、この本を連れて帰ったその日、野球の衣笠選手が亡くなった。野球にさほど興味はないものの、やはりショックは否めない。そんなニュースを耳にした日に、まさかこの本を読むことになろうとは。
数ページ読んだところで思わす「わっ」となる。
そう、既読の方はご存知でしょうが、本書の主人公は「衣笠幸夫」なのだ。
漢字は違うが、まさに野球の衣笠からきた名前だという。
んーーずっと読みたかった本、たまたま手にしたその日に亡くなった衣笠選手。
こういうことってあるんだなぁ・・・と、なんだか忘れられない読書になった。
さてさてその衣笠幸夫は小説家。
不慮の事故で妻をなくしてしまうのだが、そんな状況になっても悲しむことが出来なかった男。一体、この冷めきった関係の裏には一体なにがあったのだろうか。
事故で同じく妻を亡くした親子。この親子は幸夫の妻の友人一家。幼い子供を残して父子家庭になった親子と出会った幸夫は、やがて子供たちの世話を買って出る。
彼らと過ごすことにより幸夫は少しずつ少しずつ変わり始める。
特に子供たちと知り合えたことで父性のようなもの、もしくは人間らしさを取り戻し、自己と他者というものに向き合うようになる。
とにかく幸夫と言う男は自己愛は強いし、コンプレックスも強く、なにかとややこしい性格で、要所要所イラっとさせられるのだ。けれども、そんな彼のどこか凝り固まった面倒な部分や、淋しさや、孤独が、子供たちの存在によってまるで雪が溶けて行くかのように変化するあたりから目が離せなくなってくる。子供たちに必要とされるということが、彼をどんどん成長させてゆく。
しかし、ある日幸夫は妻の遺したあるメッセージを知ってしまい、再び絶望感に突き落とされる。荒れてしまった幸夫は友人一家の元を去ってしまうのだが・・・。
幸夫はやはり変われないまま終わってしまうのか?ベストセラーになった小説だけにラストシーンがなかなか見えてこない面白さと不安が入り交じる。
大切な人を失って初めて気づくということは世の常だ。
幸夫は失っても尚その大切さに気付けない自分に苦しむ。
生きていくためには心の整理をしなくてはならない。ラストに見せる幸夫の全力の言葉はこの小説のあらゆることを浄化させるものであった。
そして読み終わってはじめてタイトルの「永い言い訳」という言葉がストンって音を立てて落ちていく感じがしたのだった。
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