いるいないみらい:窪美澄著のレビューです。
幸せって?今ある状況を受け入れてますか?
深刻なテーマを、敢えて「ひらがな」で表記したのでしょうか?なにかほわんとした感じがして、最初はどんな話なのか想像ができなかったのですが、読んでみると内容はタイトル通りであることが解る。
タイトルに「こどもが」を加えてみると「ああ、なるほど」なんですね。そこを敢えて加えなかったことが、より深くこのテーマを際立たせる感じがしたのは読み終えてから。そして、本書は短編集なのですが、短編と言う形だからこそ、子を生む、生まないの選択は一括りに出来ない様々なケースがあるんだということを、改めて感じる内容でありました。
こどもが居ても居なくても、幸せの形は人それぞれだし、比べるものでもない。ということは、誰もが解っていることなんだけれども、結婚=子供という考えは根強くあり、時に人々を苦しめるものになったりする。
夫婦であれど、必ずしもお互いが同じ考えを持っているわけではない。どちらか片方が望んでいても、もう片方が望んでないケースだってある。ここでは子供が嫌い、苦手という女性も登場する。何故苦手なのか等、彼女がこれまで背負ってきた過去と照らし合わせないと、その思いを理解することなど出来ない。
本書では妊活だの養子だの、どうにかしてこどもを作ろうとする場面に出会う。夫婦そろって同じ目標に向かっているのなら、なんら問題もない話だけれども、そうじゃないとやはりその歪みがいつしか大きくなって問題になる。そのあたりの心理描写は窪さんならでは繊細さが窺えます。
今ある生活を振り返ると、こどもが居る人も居ない人も、未来へ向けて慎重に選択をして来た。特に女性は仕事、結婚、タイムリミットが付きまとう出産という大きな決断をしなければならない。プレッシャーから解放されるまでの紆余曲折は、本当に大仕事である。
幸くシリアスなテーマではありましたが、最終的には今ある自分の状況を受け入れつつ明日に向かう人々の姿が見られる小説で良かった。
夫婦の形としてとても印象的だったのは、自分たちの子供ではない子を引き取って、育て上げた脇役の老夫婦が印象的でありました。
色々あったのでしょうけど、血の繋がりがない娘を本当に愛情をもって大切に育てんだなぁと、なんだか目頭が熱くなるような優しい雰囲気がたまらず良かったです。窪さんの小説に出てくる老人って本当魅力的な人が多いのです。ぜひ、注目してみてください。
姉妹サイト えほんの本棚