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【レビュー】自転車泥棒:呉明益

 

 

自転車泥棒: 呉明益著のレビューです。

 

 

ある一台の自転車からはじまる話は、やがて壮大なストーリーへと広がっていく。

 

 

父の失踪とともに消えた自転車は何処へ━━━━。



一台の自転車の行方を追う話は、やがて大海原へ飛び出し、壮大なストーリーへと広がっていく。最初はまさかこんな展開になるなんて思わなかった。あくまでも家族の思い出語りといったものなんだというふんわりした気持ちと、いつか読んだ同著の「歩道橋の魔術師」のセピア色の日々を思い出しつつ大好きなこの雰囲気をゆったりと味わっていた。



自転車を探す主人公の男性。その過程で出会う人々。当然、彼らひとりひとりには様々な思い出や経験がある。そこから引き出される話から、われわれ読者は長い歴史の旅へといざなわれるのです。

 

 

 



第二次世界大戦時のアジア各地のジャングルや森、動物園、そこに居た兵隊、動物、そして自転車。どの話も大変丁寧に描かれている。とりわけ自転車に関しては筆者の熱量の高さが窺え、自転車に向けるこだわりや知識がふんだんに盛り込まれていて非常に興味深い。



また、動物に纏わる話も数多く登場する。
「蝶の貼り絵」の製造工程や、時に動物たちが見せる幻想的とも言える物哀しいシーンは、本を閉じて尚も心に留まっているような印象的なものであった。当時は人も動物もいかに過酷な状況下に居たかと言うことが、ツンツンと胸を刺すような痛みを持って伝わってくる。そこに人々の歴史、家族の歴史が絡み合い、あの場面、この場面と、眠っていた記憶が起き上がり、話にどんどんと深みを加えます。



自分の拙い言葉では全く追いつかないものがある。とても簡素な感想になってしまいましたが、ある一台の自転車からはじまる物語は、まさに「物が語る」そのもので、ひとつの物からこんなにも広がりを見せる話に、誰もが圧倒される一冊だと思うのです。



個人的にこの作家の醸し出す、滲み出る、映写機から映し出されるような雰囲気が大好きです。次の作品も益々期待が高まって止まりません。

 

 

 

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