林芙美子随筆集:林芙美子著のレビューです。
ハムエッグス、コオフィ、マアマレイド 片仮名表記はおいしそう!
とても静かな林芙美子の日常を描いた随筆。
旅、花、食、絵、書くこと、住まい等々、林芙美子の生活そのものが映し出される。
強く残る話があるわけではないけれど、とてもとても雰囲気がある。
知らない時代、知らない土地でありながら、その様子が頭の中にぱっと浮かんでくるような・・・。
「田舎がえり」は芙美子が育った尾道のことが書かれている。
まるで彼女と一緒に当時の町を歩いているような錯覚に陥る生きた描写から、あらためて林芙美子は「書く人」であり「旅人」であるのだなぁと感じずにはいられない。
ひとつひとつの風景に焦点を合わせ、心でシャッター押し、
それを言葉で表現してゆく感じがひしひしと伝わって来る。
それと、「食」に関する話題も楽しい。
昔のカタカナ表記って魔物です。すごくおいしそうに感じるのは私だけだろうか。
ハムエッグス、コオフィ、マアマレイドにピーナツバタ。
巴里のキャフェで食べた三日月パン(クロバチン)って
クロワッサンのことかな?
ちょっと表記が変わっただけなのに、妙に惹きつけられ、特別なものに見えてくる。
「朝御飯」という随筆は、芙美子の朝の匂いがどこからともなく入り込んで来るような話だ。
結婚してからもお金には困っていた様子も伺える。
浴衣を売ってしまい着るものがなかった芙美子は、紅い海水着で暮らし、出版社の方が見えたときも、海水着で応対したとのこと。生活が苦しいながらも紅い海水着を残し、それを着て生活しているあたりが林芙美子のユニークさとでも言おうか。ご本人には悪いけど、紅い海水着で台所仕事をしている姿を想像しちゃうと、たちまち可笑しくなってしまう。
「随筆をかいている時は、私の一番愉しいことを現している時間です。古里に戻ったような気持ちです。」
林芙美子が自ら書くことを愉しんだという随筆。
小説とはひと味違う雰囲気が愉しめる貴重な一冊です。