百貨の魔法:村山 早紀著のレビューです。
百貨店は人々の過去の思い出を呼び寄せる特別な場所
現実にはないけれどこんな街に行ってみたい、住んでみたいという素敵な街が物語にはたくさんある。村山さんの描く「風早の街」は私にとってそんな素敵な街のひとつです。
今回何も知らずに読み始めたら、この街の名前が飛び込んで来て懐かしいやら嬉しいやら。とにかくひさしぶり風早の街と再会が出来て嬉しかったです。
舞台は「星野百貨店」、歴史ある老舗の百貨店です。地域に密着し、人々に愛され、子供たちが気軽に遊びに来られるような温かい場所なのです。そんな星野百貨店も時代とともに経営も難しくなり、いつまで続けられるか・・・という最大の課題を抱えている。
百貨店という場所は、人々の過去の思い出を呼び寄せる特別の場所なんだなーと言うことがこの物語を読んでいるとよく解る。幾度改装を重ねても、どこかに昔の痕跡があり、それがあの時の時間に繋がっていくような・・・・。
老舗のデパートが閉店するなんてニュースを見ると、訳もなく胸苦しさを覚えるのは、きっと思い出の場所が消えてしまうという哀しさからなんだろうなぁと思う。この物語に出てくる人々も星野百貨店にたくさんの想いを持って訪れる。お客さんだけでなく、従業員一人一人にも。
特にこのデパートの屋上で母親と生き別れになった「宝石フロアの主」と呼ばれる佐藤さんの話は目頭が熱くなる。また、チョコレートパフェに添えられていた「くだものの種」。屋上の花壇にその種を植えた子供のいたずらがいつしか大きくなってこのデパートで生き続ける・・・こんな「ちょっとい話」がたくさん詰まっている本でした。
そしてファンタジーの要素も。星野百貨店には金と銀の目を持つ白い子猫が時々現れるそう。出会ったら願いが1つだけ叶うという言い伝えがある。実際、見た人もいるみたいです。あなたもこの子猫ちゃんに会えるかな?
表紙の影響もあるのかもしれないけれど読んでいる間、ずっとキラキラしたオルゴールの中に入り込んだような心地でした。小さな扉をたくさん開けてはステキなエピソードに出合える街。やっぱり風早の街はステキだ!
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