チャーシューの月 村中李衣著のレビューです。
感想・あらすじ 児童養護施設にやって来た特殊能力をもつ少女
児童養護施設がどんな場所であるのか漠然としたイメージしかなかった自分にとって、この物語は施設内での活動が非常に解りやすく描かれていたので、ずいぶん勉強になりました。
6歳の明希が「あけぼの園」にやってきたのは、うすい雪が舞う2月のはじめ。父親と暮らしていた明希。その父親と離れるシーンから始まる物語はなんとも切ない。車の窓から右手を空につきあげ、父親が言った言葉が表題の「チャーシューの月」。なぜチャーシューなのかは本書にて・・・。
冒頭に登場人物が紹介されていることからも、この園には年齢もまちまち、さまざまな家庭の事情でここへやって来た子供たちが集まっている。
その子供たちを大きな愛情で見守る先生たち。登場する人々は個性的で印象に残る人たちばかりだ。主人公の明希は記憶力が人並み以上に優れているという特殊能力があり、記憶するときや思い出すときに「かしゃっ」とカメラのようにつぶやく癖があります。
記憶力が優れているということは、うれしいことも、つらいことも、すべて鮮明に覚えているという・・・これはやはり辛い。
父親に怒られた時の記憶がそのまま残っている明希は、他の人に怒られそうになると「ごめんなさい、とうちゃん、もうしません」を繰り返すような子供なのです。
もうすぐ中学になる美香はクールな性格なのに、何故だか明希のことを放っておけなくて、なにかと世話を焼いてあげている。人との深い関わりを好まない美香なのだが、明希のことになると熱い一面をのぞかせる。
施設内の出来事、面会にやって来る親たち、そして、学校での生活。常にいろいろな事件や問題を抱えながらの集団生活。現実の厳しさや、大人のずるさなどを含め、彼らは小さいころから感じ取っています。
一番印象的だったのは、施設の卒業生同士が、結婚して子供を連れて、あけぼの園に遊びに来たシーン。園の子たちはどうしたって大人になっていくことのイメージがもちにくいという。
母親になった卒業生・愛が明希にしたこと・かけた言葉。ジーンとくるとともに、私も願わずにはいられなかった一言であった。
親と一緒に居ることが状況によっては必ずしも幸せとは限らないってこともある。そして明希のように自ら母親と一緒の生活を選ばない子供もいる。この物語は色々なケースから様々な「家族」が存在することに気づかされる。
なかなかシビアな内容ではあったけど、この物語を通じて知れた部分がたくさんあった。どうか子供たちが希望のもてる社会であるようにと願わずにはいられない1冊でした。
作者について
1958年山口県生まれ。児童文学作家、梅光学院大学教授。筑波大学人間学類卒業後、日本女子大学大学院で児童文学を学ぶ。その後、創作活動に従事する一方、「読書療法」「絵本を介したコミュニケーションの可能性」「関係性の回復をめざしたトレーニング」をテーマに研究・執筆を続ける。おもな著書に『かむさはむにだ』(偕成社、日本児童文学者協会新人賞)、『小さいベッド』(偕成社、産経児童出版文化賞)、『おねいちゃん』(理論社、野間児童文芸賞)など(Amazonより)
チャーシューの月について
出版社 : 小峰書店
発売日 : 2012/12/1
単行本 : 222ページ
サイズ:13.5 x 2 x 19.5 cm
この本は2013年中学生の課題図書にもなったんですよ。